きまぐれ企画の「たまにはローズの話でも」です。
今回は私がイチオシしているCollingsのOM2HT Authentic Styleを紹介します。
まず、コリングスのネーミング体系について馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、簡単にまとめておきますね。
OM …ボディの形状(OM:オーケストラモデル、D:ドレッドノートなど)
2 …ローズウッドモデル(マーティンでいうところのStyle-28)
H …ヘリンボーン付き(黒と白の縁取りの部分)
T …トラディショナルシリーズ
その他、主なオプションとしては、以下のような感じですね。
■トップ材のオプション
A …アディロンダックスプルース
G …ジャーマンスプルース
E …イングルマンスプルース
■サイドバック材のオプション
Mh …マホガニー
MR …マダガスカルローズウッド
Baa …ブラジリアンローズウッド
■その他
Varnish …ヴァーニッシュ塗装
CW …クラレンスホワイト・モデル
Style-1 …サイドバックがマホガニー(マーティンのStyle-18)
Style-3 …インレイ付き(マーティンのStyle-40系)
またコリングスも年代によって音作りが変化していますので、そのあたりから整理したいと思います。
大きく分けると、オースティンでファクトリーを拡充する1992年以前と、ファクトリーでの生産が軌道に乗った1993年以降にわけられます。
1992年以前のコリングスは滅多にお目にかかることもなく、私も数本しか弾いたことがないので、その時期固有の特徴を捉えきれてはいないのですが、比較的マーティン寄りな音色という印象です。
そこから1993年以降になると、一気にカリカリ・コリコリのコリングスサウンドが確立されていきます。
その後の変化ですが、、、
①ラッカー塗装が施された1993年~1997年
②UV塗装に変更された1997年~2009年のマイナーチェンジまで
③2009年からトラディショナルシリーズが開発される2016年頃まで
④トラディショナルシリーズで得られた経験が取りこまれた2016年以降
に分けられると思います。「年」については、おおよその目安と考えてください。
今回のOM2HTは④の時期に該当します。この頃のコリングスはカリカリ感、コリコリ感満載の①②の時期と比べると、とても素直な音色で、マーティンからの持ち替えても違和感が少ないかなと思います。
もちろん、ナチュラル側にシフトしたことで、従来のコリングスらしさというものは失われてしまったと感じる方も多いとは思いますが、自分の好みや、使い方の問題なので、どちらが優れているという話ではありません。
そしてマーティンに寄せた音色でありながらも、マーティンを上回る木工技術の高さや、ピッチの正確さ、高い堅牢性を兼ね備えた楽器としての最高峰と言っても過言ではない仕上がりになっています。
そして、私のOM2HTの特徴としては、オーセンティック仕様などと表現されたりもしますが、極初期のみに販売されていたヴィンテージ仕様の肉厚なネック形状があげられます。
本当にトラディショナルシリーズの初期ロットでしか作られていないので、日本でも殆ど入荷されていないんじゃないでしょうか(10本あるのか?)。
肉厚なネック形状というと、ベースボール・バットなどと揶揄される1940年代のGibson J-45が例にあげられますが、それと同様にウッディでありながらも芯の太い、パワフルな鳴りがとても素晴らしいです。
もちろん、ギブソンのような極悪な太さではなく、演奏性も維持しつつ、あくまでもヴィンテージを再現したネック形状となっています。1930年代のマーティンのワイドネックに近いと考えてもらえればよいかと。
昨今は薄いネック形状ばかりがもてはやされていますが、肉厚のネックには肉厚のネックでした出せない音色があるのです。あのビル・コリングスがわざわざトラディショナル・シリーズ用に開発したネック形状ということもあり、やはりそこには譲れない理由があるのだと思うのです。
また私のOM2HTは、トラディショナルシリーズでありながらも、トップ材にはTorfied加工(熱処理)がされていません。
一般的には熱処理を加えた方がヴィンテージ感が増すと考えられていると思いますが、私はあえて熱処理を加えていないものを選んでいます。
私の経験則でいくと、熱処理を加えることでトップ材は硬くなり、ピッキングした時のエッジ感が際立ち、響きは若干整理される(サステインも減る)ように感じています。
一方、熱処理を加えていない場合ですと、ふくよかさであったり、優しさ、温もりのようなウッディ感が残ると感じています。この辺は好みの問題ですね。
ただ、ほとんど語られることのない大きな違いがあったりします。それは、経年変化の違いです。
私の熱処理を加えていないOM2HTは6年間弾き込むことで、楽器としての成熟度も増していて、鳴りも大きく、倍音感もいかにもローズウッドのOMらしい理想的な音色に成長しています。
一方、熱処理を加えたものはどう変化しているかというと、中古で出回った個体を弾いた感想としては、新品時からあまり変化がないように感じるのです。
熱処理をすることで、経年変化のような影響を与えているわけで、当たり前といえば当たり前なのですが。
ですので、よく弾き込まれた熱処理を加えていないトラディショナルシリーズを見かけたら、是非、試奏してもらいたいなと思うわけです。
トラディショナルシリーズの成長、進化を感じてもらいたい。
最後に仕様をまとめておきます。
トラディショナルシリーズ共通のナット幅は44.5mm、
スケールはロングスケールでマーティンよりも2.7mm長い独自仕様の647.7mm、
ブレーシングはトラディショナルシリーズ独自のTraditional Series Prewar Scalloped-X、
ヴィンテージのマーティンで使われていたニカワ接着も音色に良い影響を与えると言われていますね。個人的にはヌケの良さに繋がるかなと。
トップ材は熱処理をしていないシトカスプルースです。
トラディショナルシリーズの場合、シトカかアディロンが選べるのですが、正直、シトカで十分と感じられる素晴らしい設計と作りだと思います。
もちろん、アディロンへの憧れはあるものの、ローズウッドとの組み合わせでは、むしろシトカの方が素直にローズの魅力を引き出してくれているように感じます。