スキップしてメイン コンテンツに移動

「Collings」を語る。その⑨:Collings、Martinの歴史を振り返る。

 

青がCollings、赤がMartinの製作本数

「Collingsを語る。」として、8回にわたって記事を書いてきました。思っていたよりも長い連載になってしまいましたが、私のコリングスに対する熱量は伝わりましたでしょうか。今回は最終回ということもあり、コリングスの歴史を振り返りつつ、まとめていきたいと思います。


歴史を振り返るにあたって、コリングスとマーティンの製作本数をグラフにしてみました。製作本数の伸び率をみるために、左軸がコリングス、右軸がマーティンとして二軸のグラフにしています。


これを見ると、製作本数の伸びが驚くほど類似していることが分かりますね。むしろ、マーティンの方がバックパッカーやエド・シーランの使用で有名になったLX1/LX1Eなどの廉価版ギターで製作本数を水増ししているところがあると思いますので、コリングスの成長は目を見張るものがあります。


その他にグラフから読み取れることとしては、アコースティックギターの転機となったのは、やはりエリック・クラプトンのアンプラグド(1992年)の影響が大きかったことがわかりますね。


また、グラフからは判別できませんが、ヴィンテージギターの魅力というのも、この時クラプトンが使用した000-42(1939年製)からはじまったと言われています。それを確かめるべく、今度は年表で整理してみたいと思います。


1988年:ビル・コリングスによって、テキサス州オースティンにCollingsを設立

1992年:エリック・クラプトンがMTVアンプラグドに出演⇒クラプトンが使用した1939年製の000-42により、ヴィンテージギターの魅力が広まる

1995年:Martin Vintage Seriesが開始

1996年:Martin 000-28EC(Eric Clapton Signature Model)が開始

1999年:Martin Golden Era Seriesが開始⇒初代はD-18GE、ゴールデンエラ仕様の追求がはじまる

2000年:Collingsの製作本数がはじめて1000本を超える

2005年:Collingsがヴァーニッシュ・フィニッシュを開始⇒NAMM SHOW 2005にてビル・コリングスが自ら製作したD-1A Varnishを発表

2005年:Martin Authentic Seriesが開始⇒初代はD-18 Authentic、本家による真の復刻版

2009年:Collingsにてマイナーチェンジ⇒ウッディでマーティン寄りな音色に変更。実はAuthenticの影響か?

2014年:CollingsにてサブブランドWaterlooが開始⇒温故知新、古き良きギターサウンドの追求

2015年:MartinにてVTS(Vintage Tone System)が開始⇒トップ材の熱処理が業界に広まる

2016年:CollingsにてTraditional Seriesが開始⇒Martinに遅れること一年、トップ材の熱処理(Torified加工)開始


ここで、ひとつ自分の間違いに気付きました。マーティンのオーセンティック・シリーズのきっかけがコリングスのヴァーニッシュ塗装だと思っていたのですが、タイミング的にはオーセンティックとほぼ同時期だったんですね。


またこうして見ると、アンプラグドでのヴィンテージ評価やコリングスの台頭によってマーティンが開発したのが、1995年からのヴィンテージ・シリーズであり、そこから1999年のゴールデンエラ・シリーズ、2005年のオーセンティック・シリーズへと、進化を遂げていったことがわかります。


一方、コリングス側はと言うと、そういったヴィンテージ・シリーズやゴールデンエラ・シリーズの成功に追随しようと開発されたのがヴァーニッシュ・フィニッシュだったと推測できます。ヴァーニッシュに関しては、値段も高く、取り扱いも難しいことから、商業的に成功したとまでは言えませんが、それでもサウンドの追求という点では素晴らしいものがありました。


そしてWaterlooの経験を通じ、古き良きヴィンテージサウンドの探求を重ね、アップデートされたのがトラディショナル・シリーズだったというわけです。これがビル・コリングスの遺作となってしまったわけですが、本当に素晴らしいギターが完成したと思います。(厳密にはJulian Lageモデルですが、私的にはトラディショナル・シリーズの派生と位置付けています)


この両社の企業間、そしてクラフトマンたちの技術競争があったからこそ、現代のハイスペック・ギターが誕生したのではないでしょうか。いやー、この職人たちの熱量と探求心は本当に素晴らしいですね。そして全てではありませんが、この進化の過程をリアルタイムで体験できたことをとても幸福に感じています。


以上で、「Collingsを語る。」終了します。


※ちなみに、マーティンの経営を立て直したとまで言われるほど売れに売れたクラプトン・モデル000-28ECですが、これも仕様を見ると、ヴィンテージ仕様の三角ネックに、スキャロップブレーシング、ヘリンボーンなどが採用されており、実質ヴィンテージ・シリーズの000-28と言えると思います。私がはじめて所有したマーティンということもあり、いまなお思い入れのあるギターです。



・「Collings」を語る。シリーズ 

Popular Posts

マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」 その①

「YAMAHA FG-180(1968年製)」 第二回にして、早くも番外編的なギターを取り上げてみたいと思います。 マホガニーの合板が使われた、国産初のアコースティックギター「YAMAHA FGシリーズ」こと、 通称「赤ラベル」です 。 ジャパンビンテージ と言われ、人気の高い赤ラベル(FG-180、FG-150)ですが、私はとても懐疑的でした。 現在もテリーズテリーで活躍されている方々が作られた単板のギターと言われればわからなくもないです。 でも、 サイドバックだけではなく、トップにまで合板が使われたギターから、ビンテージサウンドが出るわけがないと思っていたんです 。 そもそもこの 赤ラベルには、構造的な欠陥がある と考えていました。 それは ネックの仕込み角度に起因する弦高の高さ です。 当時は、コードストローク中心のプレイスタイルだったこともあり、弦高が高くても問題はないと考えられていたのかもしれません。 それでも、現代の水準では高すぎると思うし、それが経年変化することでネックが起き、さらに弦高が上がってしまった個体が多いんですよね。 その対応策として、サドルを削って弦高を下げるわけです。 でも、それによって弦のテンションが下がり、音質に悪い影響が出てしまうんです。 よく見かける赤ラベルは、このような状態のものばかりで、どれを弾いてもイマイチに感じられて、赤ラベルのビンテージサウンドなんてありえないと考えていたんです。 このFG-180と出会うまでは。 <関連記事> マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その① マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その② マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その③

ショートスケールのアコギについて考える その③

ロングスケールのD-18GE(2004年)とショートスケールのOOO-18GE(2006年) 今回はショートスケールのデメリットについて、考えてみたいと思います。 ※過去記事はこちら ↓↓↓ 「 ショートスケールのアコギについて考える その① 」 「 ショートスケールのアコギについて考える その② 」 私が尊敬する中川イサト師匠、岸部眞明氏などなど。 ギターインストの世界では、変則チューニングを使われる方が多いですよね。 ギターは、チューニングを変えることで、演奏しやすくしたり、独創的な響きを作り出すことができる楽器ですので、その特性を活用しているわけですね。 でも、私にはそれが厳しかったりします。 なぜならば、これがショートスケールのデメリットだからです。 変則チューニングは、スタンダードチューニングから音階を落とした設定が基本になります。 というのも、ギターはスタンダードチューニングを前提に設計されているので、音階を上げるとテンションがきつくなって弦が切れたり、ギターに負荷がかかってしまうからです。 そのため、弦を緩めた時に、演奏できるだけのテンションを保てるのかが、変則チューニングでは重要になります。 変則チューニングにした場合、弦のテンションが強いロングスケールであれば問題はありませんが、ショートスケールだとテンションを保てない場合があります。 テンションを保てないと、弦の鳴りが弱くなりますし、チューニングも不安定になります。 定番のダドガド(DADGAD)やオープンG(DGDGBD)くらいであれば影響はないと思いますが、それ以上、チューニングを落とす場合は、厳しい場合もあります。 たった13ミリのスケールの違いで、響きや演奏性まで変わってくるからアコギは面白いのですが、、逆にそれだけシビアな世界ということでもあります。 個人的には、ショートスケールはメリットが多いと思っていますが、当然のことながらデメリットもあるわけで、アコギを選ぶ際には、その点に注意して頂きたいと思います。

「オイルを塗るのか、塗らないのか」メンテナンスについて考える④

  今回は、前回の椿油に引き続き、オイル繋がりで、指板のメンテナンスで使われるレモンオイル、オレンジオイルを取り上げてみようと思います。たかがオイルの話なのですが、これもまた以前取り上げたことのある「 弦を緩めるのか、緩めないのか 」と並び、諸説のあるテーマで、取り扱うのが面倒なネタだったりします。 「弦を緩めるのか、緩めないのか」メンテナンスについて考える② そもそも、オイルを塗った方がいいのか、悪いのか、それすらはっきりしていません。効果についても、これといって目に見えるものでもないですし、数値で表すことも難しいので、判断できないのです。 また、個人的な見解ですが、そもそも指板をオイルで綺麗に掃除するような人であれば、きっと楽器そのものも丁寧に取り扱っているはずですからね。そもそも、トラブル自体が少ないのではないかと思うわけです。つまり、その方がオイル塗った方が良いですよと言ったところで、必ずしもオイル単体の効果とは言いきれないのではないかと。 オイルを塗った方が良い派の意見としては、指板の保湿効果をあげる人が多いと感じます。オイル自体も自然蒸発しますが、少なくとも水分よりは蒸発に時間がかかるので、短期的に見れば保湿効果はあるのでしょう。でも、みなさん考えてみてください。 例えば自分の手を例にあげてみます。細胞も生きていて、水分補給もされている人間の手でさえ、冬場には乾燥して肌が荒れてしまいます。ハンドクリームを塗ったところで効果は一時的で、肌は荒れてしまいますよね。 それにも関わらず、細胞が死んでいて、かつ、自分では水分補給もできない状態になっている指板が、オイルを塗るだけで保湿が可能なのでしょうか。しかも、塗ったとしても、年に1~2回とか、多くて弦交換の都度塗るだけです。それだけで、木を乾燥から守ることができるのでしょうか。 もちろん、オイルを塗らないよりは塗った方が短期的には保湿できます。でも、乾燥対策ということであれば、指板が乾燥して問題が発生する前に、その他の部分、例えばトップ材のスプルースなどが先に影響が出てしまうのではないでしょうか。 ですので、保湿を気にするのであれば、指板にオイルを塗るような局所的な対応ではなく、ギター全体の湿度管理を徹底した方が効果的ではないかと思うわけです。 でも、リペアマンやメーカーなどでもオイルを使っているじゃな...

マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」 その③

「YAMAHA FG-150(1969年製)」 赤ラベルの音色は十分に魅力的だとは思います。 ただ「FG-180」の場合、合板の特性なのでしょうか。 低音を上手くコントロールできず、締まりのないモコモコと膨らんだ音になってしまうんです。 低音の膨らみを解消するには、ボディサイズを小さくすればいいというのが私の持論です。 となると「FG-180」よりも一回り小さい「FG-150」を試してみたくなりますよね。 というわけで入手してみました。 いくつかパーツは取り替えられていますが、十分にセッティングされた1969年製の「FG-150」です。 それでは、実際に弾いてみましょう。 予想通り、低音の量感が減っているので、中高音域が前面に出てきて、楽器としてのバランスがとても良いです。 それに、音の深みだったり、ヌケの良さといった、熟成したマホガニーらしさも感じられます。 ただ、 ボディサイズが小さいため、箱鳴りよりも弦鳴りが強く出るので、ヴィンテージ感は「FG-180」の方が上 ですね。 この中間のサイズが欲しかったな。 1970年代に入ると、たくさんの国産アコギが作られるようになりましたが、いろいろ調べてみると、マホガニーが使われたギターは廉価ものばかりなんですよね。 その大半がローズウッドの「D-28」や「D-35」をベースにしたものばかりですからね。 今になってみると、なぜヤマハが、国産第一号のアコギにわざわざマホガニーを選んだのか不思議に思います。 赤ラベルは、国産初のアコースティックギターとか、フォークギターの元祖とか、ジャパン・ヴィンテージとして評価されています。 でも、 個人的には、国産マホガニーの名器として評価したい と考えています。 過大評価されている部分もあるとは思いますが、コストパフォーマンスは抜群だと思います。 <関連記事> マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その① マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その② マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その③

【売却済】カオルギター、坂崎幸之助氏のもとに!!!

先日ご紹介した「カオルギター」ですが、この画像の方がご購入されたそうで。 なななんと、The Alfeeの坂崎幸之助さんでした。 アルフィーの坂崎さんが購入されたってことは、やはり凄いギターだったんだなと、日々、後悔しております。やはり、無理してでも買っておけばよかったなと(まぁ、金銭的理由で買えないんですけどね) 今回のカオルギターは、マークホワイトブックを再現したと言われるRushと呼ばれるモデルで、ドレッドノートタイプとOM(オーケストラモデル)の2種類が入荷していましたが、画像を見る限り、坂崎さんは「Kaoru Guitar / Rush the Blood OM Cutaway Deluxe」を選んだようですね。 このRushですが、製作家の中島馨氏がオリジナルのマークホワイトブック(ドレッドノート)を借り受け、実物を手に取りながら研究に研究を重ねて製作されたとのことなので、基本的にはドレッドノートが標準系なんですよね。 このOMは、そのドレッドノートの音色や特徴を中島氏が独自の感性でOMスタイルに落とし込んだものとなります。それだけに、中島氏のセンスや設計思想がより強く反映されたモデルといえるのではないでしょうか。 実際に試奏した際も、ドレッドノートとOMで共通するフィーリングを持ちながらも、楽器としての用途を意図した作り分け(音作り)が明確になされていて、これまた凄いことだなと感じていました。 この共通するフィーリングですが、簡単に言ってしまうとジェームス・テイラーのアルバムで聴くことのできた「マーティンのようでありながら、ギブソンのようでもある音」です。そして、あのジャリっとしたまとわりつくような独特の倍音感をうまく再現できているなと感じました。 この倍音感がとても面白くて、Martin D-45のように全音域に対して倍音バリバリだと、バンド演奏の中では逆にアコギの音が埋もれてしまったりするんですよね。アコギの音をバンドサウンドの中で引き立てるには、他の楽器と重ならない周波数帯域を強調する必要があるんですよね。 そこで、このRushモデルではあえて倍音の量感やレンジを狭めることで、バンドサウンドの中でもしっかり主張できるような音作りになっています。それでいて、弾き語りで使った場合では、ギブソンよりも硬質な倍音成分が多く含まれているため、十分な倍音を出...