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ニール・ヤング(Neil Young)の使用ギター:「Martin D-45(と、D-18)」

マーティンのフラグシップ・モデルであるD-45。


オリジナルのD-45は1933年に製造が開始され、1942年までに91本が作られました。有名な話ではありますが、光り輝くインレイが日本から輸入していたパールを使用していたんですよね。そのため、太平洋戦争の激化と共に輸入が困難になり、製造を断念したと言われています。


そんなD-45も1968年に復刻されます。でも、オリジナルは91本しか作られておらず、このギターの持つ音色というのはほとんど知られていなかったのではないかと思うんですよね。ただ、見た目のインパクトという点では人気は継続していたようで、D-28にインレイをつけるカスタマイズが施されたギターもあったりしますよね。


でも見た目だけではなく、唯一無二な煌びやかな豪華な音色もD-45の魅力な訳です。では誰が、音色としてのD-45の魅力を知らしめたのか。やはりそれは、CSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)の存在ではないでしょうか。D-45サウンドを駆使し、オープンチューニングを多用したアンサンブルには今なお圧倒されます。


でも、私は思うのです。D-45のようにギター一本だけでも十分と思えるほどに完成された音色は、アンサンブルよりもシンプルな弾き語りでこそその魅力が発揮されるのではないかと。すなわち、ニール・ヤングの弾き語りこそがD-45の真髄なのではないかと思うわけです。


で、なぜ突然ニール・ヤングの話題かと言うと、遅ればせながらOBS(オフィシャル・ブートレッグ・シリーズ)を大人買いしたからなんですけどね。


・CARNEGIE HALL 1970(1970年12月4日)

・DOROTHY CHANDLER PAVILION 1971(1971年2月1日)

・ROYCE HALL 1971(1971年1月30日)

・CITIZEN KANE JR. BLUES(1974年5月16日)


さらには、少し前にでた「YOUNG SHAKESPEARE(1971年1月22日)」と名盤「Live At Massey Hall(1971年1月19日)」も含めると、この時期近辺で6タイトルもリリースされています。ニール本人が、いかにこの時期を特別なものとして捉えているかが伝わってきますね。選曲的にも、1970年の「After The Gold Rush」と、1972年の「Harvest」の中間にあたるわけで、まさに初期のベストとも言える内容。そこに、極上のD-45サウンドが鳴り響くわけです。悪いわけがありません。


そういうこともあって、実はニール・ヤングの音色を求めて、一時期、D-45を探していた時期があったんですよね。で、いつも通り楽器屋さんを巡り、D-45の試奏の旅にでたのですが、その度に「あの音が出ないなぁ」となるわけです。シトカスプルースとジャーマンスプルースの違いなのかと思いきや、1970~1973年頃のジャーマントップを弾いてみても同じ音がでないわけで。


となると、インディアン・ローズウッドとブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)による違いなのかな?と思っていたわけです。でも、なかなか出会えないですからね。そうこうしているうちに、幸運なことに、ハカランダのD-45を弾かせてもらえる機会に巡り合ったわけです。


で、結論がでるのはあっと言う間でした。ギターを持った瞬間、違いがわかったのです。なんと、ハカランダのD-45は軽いのです。実際に重さを比べたわけではないので、正確に表現すると軽く感じられた、が正しいのですが。質量的にはハカランダの方がインディアン・ローズウッドよりも重いはずなのに、それでも軽く感じてしまうとは、どういうことなのだと。


そこでふと閃いたのが、戦前のマーティンなども非常に軽く作られているということでした。そう、これは作りが違うんだなと考えるに至ったわけです。質量が違うということは、トップやサイドバックの板厚であったり、塗装やブレーシングなどが異なる可能性がありますよね。ただ、私のような素人には、何が違うのかまでは特定できるわけもないのですが。


そして実際に弾いてみると、音のヌケやレスポンスがまるで違うんですよね。そしていわゆるマーティンの鈴鳴りといわれる倍音の性質も70年代以降のD-45とは性質が異なります。大まかにいうと、70年代は少し音の重心が低めでダークな印象、80年代に近付くにつれて、明るくなって高音の倍音(シャリシャリ)感が強調されていく印象を持っています。


それらと比べてどうかというと、特段、個性が感じられないのです。「極めて普通(ナチュラル)」に感じられてしまうんですよね。ただ、それは「ただの普通」なのではなく、全てが高水準すぎるが故の「普通」なのですが。そして、なるほどこれがニール・ヤングの音だったのかと、腹に落ちたわけです。とはいえ、流石に私などが買える値段ではありませんからね。私のD-45の旅はここで終わったわけです笑



そして、忘れてはいけないのが、ニールのD-18ですね。外見の仕様から1950年代製と考えられますが、特定はされていないようですね。そして、冒頭で紹介した弾き語りの名盤「Live At Massey Hall 1971」では、1曲だけD-18が使われているんですよ。みなさん気付かれましたか?


ちなみに、全17曲中、D-45が9曲、D-28が2曲、ピアノが5曲と思われます。45、28、18の違いはわかりますか?まぁ、ニール・ヤングが弾くと、どんなギターを使ってもニールの音がするわけですが笑


さて、大人買いしたオフィシャル・ブートレッグ・シリーズでD-18探しでもしてみようかなと思います。


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