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「Collings」を語る。その⑧:トップ材のベイクド加工。焼くか、焼かないか。

 

悩みに悩んで選んだ焼いてないOM-1T

木材のベイクド加工(熱処理)がギターに使われはじめたのは、マーティンがVTSを導入した2015年のこと。

その前から取り組んでいたメーカーもあるかもしれませんが、やはり本家マーティンが開始すると市場へのインパクトが違いますよね。

その後、コリングスは遅れること一年、2016年から開始しています。コリングスではTorrefied(トリファイド)加工という呼び方ですね。

日本でもHEADWAYなどが積極的に導入していますね。


マーティンがVTS(Vintage Tone System)と名付けたこともあり、どうしてもヴィンテージ・サウンドの追求的な感覚でとらえてしまうのですが、、、

このベイクド加工はギター用として開発された技術ではなく、そもそもは建築などで使われる材用に開発されたものです。

ちょっとネーミングに騙されている気もしますね。


で、焼いたのと、焼いていないの、どちら派ですか?

と聞かれたら、私は焼いてない派と答えます。

なぜ、焼いてない方が好きかと言うと、単純に音色が好みだからです。

ここで自分の立ち位置を明確にしておこうと思いますが、やはり実際のヴィンテージギターと、ベイクド加工したギターの音は似て非なるものと考えています。

ただ違うとは言っても、良い悪いの話ではなく、好みの差なのであしからず。


※この記事の画像でも使用していますが、近々、マホガニー図鑑として「Collings OM-1T」を紹介する予定なのですが、、、

実はそれを購入する際に、同じトラディショナルシリーズで焼いたものと焼いてないものの新品が揃うという奇跡があったんですね。

で、どちらも素晴らしいギターで、めちゃくちゃ試奏させていただいて、悩んだ末に「焼いてないもの」を選んだのです。

ということもあり、ここでその時に感じたことをまとめておきたいなと考えています。


まず、私が弾くことを前提にしていますので、フィンガースタイルのソロギター用として評価をしています。

私の評価ポイントとしては、低音域から高音域までのバランスの良さや、ピッキングの強弱による反応を主にみています。

音はコリングスなので間違いありませんから。

私自身、焼いたのと焼いていないので一番大きな差として感じたのは、ピッキングの強弱に対する追随性でした。

焼いてない方が指弾きでは反応が素直で表現がしやすいと感じました。

また、焼いた方は、コンプレスとまでは言いませんが、倍音が整理されて音が鳴るイメージでした。

ただしこれは、弱めのタッチで指弾きした場合の話でして、フラットピックでガツンと強く弾いた場合には、焼いたトップの方がバランスが取りやすいとも感じました。


自分なりの解釈としては、焼いた方がトップ材が硬くなっているように感じていて、焼いた方がトップの振動が制御されて、音が出てくるようなイメージを持っています。

そのため、焼いたものでは弱音では反応が鈍く(=鳴らしにくい)、逆に強音ではピッキングに負けることなくしっかりと音を制御して鳴らせるなと。

また、ピッキングした時のアタック感やエッジ感のようなものは、焼いたものの方が気持ち良いですね。


ただ、その時の音の制御のされ方が、中音域を中心に整理されている印象があり、低音のズンと高音のチャリンが目立つようになるかと。

余計な倍音が減り、すっきりするとも言えるのですが、私的にはミッドレンジの豊かさを求めていることもあり、焼いてないものを選んだ次第です。

要は、プレイスタイルによって、焼く、焼かないを選ぶのが良いかなと考えています。


でも理論的には、自然乾燥し、ヴィンテージ化されたギターでも同じような変化が起こっているはずなんですよね。

何が違うのか、本当に不思議なんです。

と、ここで、ビリ・コリングスのコメントで気になるものがあったので引用してみようと思いますが、、、


「ベイクド・スプルースはレジンが抜けるように加熱加工されている」


ベイクド加工することで、木材に含まれている水分が抜けることは知られていますが、レジン(松ヤニなどの樹脂)も抜けるんですね。実はこの樹脂がポイントなんじゃないかと。

木の樹脂が抜けると、当然のことながら材の質量も変わりますし、トップ材の中に含まれているかいないかで、音の響き方(特に倍音成分)が絶対に変わってくると思うんですよね。

また、機械的に均一(均質)に水分や樹脂を抜くことができると思うので、それもリアル・ヴィンテージとの差異なのかなと考えたりしています。

やはり、残留する水分やレジンなどの、天然素材ならではのバラツキというのが、音色に大きな影響を与えるんじゃないかと。


そして、ベイクド加工の物理的な特性についてもこう語っています。


「ベイクド材がクラックする可能性は低いんだ。動きの範囲として通常のトップ材は20%の湿度で反応する。ベイクドも反応するが、通常の10~12%くらいは遅く反応し、縮むのも遅い。これがベイクド材のクールな特徴だ」


ここにベイクド材のメリットが凝縮されているように感じました。我々はどうしても音色への影響ばかり考えてしまいますが、湿度による影響が少ないということ、それにより木の変化が少なく、故障しにくい、これこそがベイクド材のメリットではないでしょうか。

見方を変えると、日本の気候にあったギターと言えるかもしれませんね。(さらに見方を変えると、自然乾燥の進んだヴィンテージギターも日本の気候に合うということですが)

音の違いは好みの差異、圧倒的メリットは頑丈さ、と考えるとわかりやすいかもしれませんね。


ただ、各メーカーがベイクド材を採用した経緯について、その思惑も考えておいた方がいいのではないかと。

それは、やはり「良質な材の枯渇」です。

材の枯渇に伴い、十分な自然乾燥を施した材が少なくなってしまった、もしくは、十分な自然乾燥を行う時間的余裕がなくなっているとは考えられないでしょうか。

また、うがった見方をすると、素晴らしい最高級の材をわざわざベイクド加工するかな?と思ったりもします。


最後に、販売から7年程度経過したこともあり、ある程度弾き込まれたベイクド材も、それなりの本数弾いてきましたので、その感想でも。

やはり弾き込むことによる変化は少ないのかな、というのが現時点での感覚です。

もちろん、今後変化していく可能性はありますが、新品のギターを購入し、その成長を楽しみたいという方は、あまり期待しない方がいいかなと思います。

もちろん見方を変えれば、購入時の音色が継続するので、その音色の変化に裏切られることなく、安心して購入できる面もあるかなとは思います。



・「Collings」を語る。シリーズ 

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