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マホガニー図鑑「Collings OM1T Traditional Series(2019)」


今回はマホガニー図鑑「Collings OM1T (Traditional Series)」となります。


以前、ご紹介した「Collings OM2HT」があまりにも気にいったため、サイドバックがマホガニーのコリングスが欲しい、という衝動に駆られ、思わず購入してしまったんですよね。この辺りは、以前のコリングス特集でも軽く触れていたかと思います。


個人的な感想ですが、このトラディショナル・シリーズの衝撃はかなりのもので、マーティンスタイルのギターということであれば、これさえあれば足りないものは自分の技術だけ、と思わせるほどのものでした。


どこが素晴らしいのかと言われると、具体的な言葉で表すのが難しかったりもするのですが、様々な要素がかなりのハイレベルな状態にまで高められたバランス型のギターと言えるのではないかと考えています。


言いかえると、弾き手の様々な要求に応えてくれるギターといったところですかね。本当にあとは技術を磨くだけで、いかようにも使える万能型のギターなのです。


ブログを初めてから、かれこれ8年ほど色々なギターを弾いてきましたが、ギターを弾けば弾くほど、こういったバランス型のギターを好むようになってきている気がします。


バランス型というと、近年モノのマーティンの名器と言われるローレンス・ジュバーモデル(OM-18LJC)を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、それとの違いがこのコリングスとの最大の違いかもしれません。


それは音の立ち上がりの早さです。粒立ちの良さ、分離の良さといった表現でも良いかもしれません。とにかく、一音一音が明確で、分離感、音程感が素晴らしいのです。


音の立ち上がりを良くしすぎると、ストローク時の音のまとまり感が出にくいのですが、この難しいバランスを精度の高い設計と製作技術で両立できているのがコリングスのOMと言うわけです。まさに、フィンガーでもストロークでも使えるギターと言うわけですね。


ジュバーモデルも、フィンガーでもストロークでも使いやすいギターとは言われていますが、全体的にコンプレッションをかけたような印象(振動を制御しているイメージ)で、どちらかというとストローク寄りに作られている印象なんですよね。


ただ、このOM1Tを購入して失敗したなと思う点もありまして…。


ローズウッドのOM2HTとマホガニーのOM1Tを揃えてしまったわけですが、あまりにも音の傾向が近かったのです。ちょっと試奏しただけではなく、実際に数年間、二本を所有してしっかりと弾き込んだ私が言うのだから間違いありません(笑)


これはコリングスのギター全般に言えることなのですが、あまりにも高度な設計や製作技術ゆえに、どの材を使ってもコリングスの音になってしまうのです。今回の場合だとトラディショナル・シリーズの音ですね。


この辺り、ちょっと材を変えただけで音が激変するマーティンとは対照的で面白いなとも思ったりもするのですが。一応、低音寄りのOM2HTと、高音寄りのOM1Tという使い分けはできるものの、どちらもトラディショナルシリーズな音色がします。まぁ、二本揃えようなんて人は少ないと思いますので、大丈夫だとは思いますが。


個人的なオススメとしては、コリングスで2本揃えたいと思ったのであれば、異なるボディサイズの組み合わせ(ドレッドノートとOMなど)や、スタンダード・シリーズとトラディショナル・シリーズの組み合わせが面白いかなと思います。


最後に仕様をまとめておきます。OM2HTと同じ内容になりますね。

トラディショナルシリーズ共通のナット幅は44.5mm、

スケールはロングスケールでマーティンよりも2.7mm長い独自仕様の647.7mm、

ブレーシングはトラディショナルシリーズ独自のTraditional Series Prewar Scalloped-X、

ヴィンテージのマーティンで使われていたニカワ接着も音色に良い影響を与えると言われていますね。個人的にはヌケの良さに繋がるかなと。


トップ材は熱処理をしていないシトカスプルースを選択しています。購入から3年弾き込んでいますが、素晴らしい成長を遂げていますよ。やっぱり私は熱処理しない派です。




・「Collings」を語る。シリーズ 

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