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マホガニー図鑑「Martin 000-18(1941&1963年製)」④

左が1941年製、右が1963年製。ブレーシングの違いがよくわかります。

もうひとつの大きな違いはブレーシングです。

'41年製はスキャロップブレーシング、'63年製はノンスキャロップです。

画像で比較すると、違いがわかりやすいですね。

スキャロップは、トップを支える力木を削ることで、トップを振動しやすくしてあります。

そのため、軽く爪弾いただけでもよく鳴るし、響くのですね。

Style 45のようなダイナミックレンジの広い「鈴鳴り」の倍音感とは違いますが、スキャロップとアディロン・マホの組み合わせが生み出す、この濃厚な倍音感は極上です。



と、一見良いところばかりに見えるスキャロップですが、'44年になると廃止されてしまいます。

なぜかと言うと、、、

この頃になると、演奏する環境や音楽のスタイルが変わってきて、より大きな音量が求められるようになっていたんですね。

それによって、ギターが大型化してきたという歴史があるわけですが、それと同時に、弦もより太いものが求められるようになっていきました。

そして、弦が太くなることで、テンションが強くなり、ギターの故障の原因になってしまったのです。

そこで、スキャロップを廃止し、ギターの強度を高めようと考えたわけです。



また、'38年以前のものと比較すると、Xブレーシングのクロス位置がブリッジ側にシフトしています。

そのため、'38年以前をフォワードシフト、'39年以降をリアシフトと呼んでいます。

この仕様は、近年のゴールデンエラや、オーセンティックシリーズなどで再現されていますね。

このリアシフトですが、強度を高めるための仕様変更ということもあって、鳴りは弱まっています。

それでも、スキャロップ特有の響きは、十分に感じることができると思います。



一方、ノンスキャロップですが、音の「芯」が特徴になります。

「芯」というのはわかりにくい表現かもしれませんが、スキャロップのように音が広がるのではなく、基音がしっかりとしていて、まっすぐに伸びるようなイメージです。

ただ、PAシステムが発達した今となっては、わざわざ太い弦を張ったり、生音で大音量を出すことも減り、ノンスキャロップの必要性があまりなくなってしまったかもしれませんね。

それでも個人的には、ノンスキャロップにはノンスキャロップでしかだせない魅力があると考えます。

というのも、フィンガースタイルが主流となったこともあり、どのギターも鳴りやすいスキャロップブレーシングばかりになってしまいましたからね。

むしろ、基音がしっかりとしていて、余計な倍音や響きのないノンスキャロップ・サウンドの音色を個性と捉える事ができるのではないかと。

以前も書きましたが、スキャロップの有無は優劣ではなく、個性の違いと考えるべきですね。



今回の比較を通して、プリウォーと呼ばれるギターの素晴らしさを体感することができました。

近年でも、アディロンダックスプルースとマホガニーの組み合わせや、スキャロップブレーシング、ニカワ接着、Tバーロッドなど、所謂、プリウォーの復刻モノは作られています。

でも残念なことに、それらとは別物の音がするんですよね。

今では手に入れることのできない良質な材が使われていたからなのか。

70年以上の年月を経て、木材の自然乾燥が進んだからなのか。

はたまた、長年に渡って弾きこまれたことで、楽器として熟成されたからなのか。

もしくは、マーティンの黄金期と呼ばれたこの時代の職人たちの技術力が優れていたからなのか。

何が理由なのかはわかりません(きっとそれら全てなのでしょう)。

ただ、世界中のプレイヤーやコレクターが血眼になって探している理由は、わかった気がしました。



私もいつか、プリウォーを手に入れたいと、強く思いました。

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