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マホガニー図鑑「Martin D-18(1953年製)」②

まずはトップ材から。 以前、アディロントップの「 Martin 00-18(1953年製) 」をご紹介しましたが、それと比べると、、、 やはり、ドレッドノートのようにサイズが大きくなると、アディロントップの特性がより引き出されてきますね。 同じ50年代のシトカスプルースのD-18と比べても、音量が大きく、音が前面に飛んでいく感じが爽快で、気持ちがいいです。 ただし、同じアディロントップでもいわゆるゴールデンエラ期のプリウォーのものと比べると、響きをコントロールしきれていない印象も受けます。 きっと、プリウォーのギターは、黄金期の職人たちの手によって、スキャロップの加減や、トップ材の厚み、そしてブレーシングの位置など、絶妙な調整がなされていたのでしょう。 また、少し太めの戦前仕様のネックも響きをコントロールする上での重要な要素なのかもしれませんね。 ヴィンテージですので、個体差はかなり大きく、あくまでも傾向としての話ではありますが、、、 今まで弾き比べてきた経験からは、50年代のヴィンテージに関しては、アディロンよりもシトカスプルーストップの方が音色的にはまとまりがあり、バランスが良く感じることが多いです。 そういったことを踏まえると、50年代のギターはその時の標準仕様であるシトカスプルースを使う前提として設計されていたものなのかなと思ったりもするのですが。 とは言え、このアディロントップの爆発的な破壊力は、まさにドレッドノートならではの魅力を増幅してくれていて、完璧に好みのやつですね。

マホガニー図鑑「Martin D-18(1953年製)」①

マホガニー図鑑第9弾は、1953年製のMartin D-18です。 この時期のD-18は、シトカスプルースが標準仕様なのですが、この個体はイレギュラーでアディロンダックスプルースが使われています。 いわゆる、最強のアディロンマホの組み合わせですね。 もちろん、シトカスプルーストップの個体でも驚くような音色の個体もありますし、鳴らないダメアディロンもありますが。 でもこう言ったイレギュラーがあったり、鳴りの良い個体を探したりすることが、ヴィンテージギターの醍醐味だったりもしますよね。 と言うわけで、一般的にヴィンテージと言われている1960年代頃までの仕様で、音に与える影響の大きいブレーシングの部分について整理してみたいと思います。 大きく3つに分けると、、、 ①~1938まで:フォワードシフト & スキャロップ ②~1944まで:リアシフト & スキャロップ ③1945以降~:リアシフト & ノンスキャロップ となります。 これにトップ材の違い(アディロンダックスプルース/シトカスプルース)と、ロッド材の違い(鉄製のTバーロッド/戦時中に使われたエボニーロッド/一番重いSQロッド)があるわけですね。 そういった中で、このアディロントップの50年代のD-18にこだわった理由があるんです。 それは、抜群のコストパフォーマンスです。 先ほどの整理を見てもらうとわかるのですが、ゴールデンエラ期真っ只中の①の値段は置いといて、、、 ②でさえも、1941年製までの同じTバーロッド仕様のものは300万以上してしまいます。 で、②と③の主な違いなのですが、、、 実は、違いはスキャロップの有無ということだけになります。 (あくまでも仕様上の話ですが) それだけで価格が1/4以下になるわけです。 そしてスキャロップブレーシングは現代でも、リイシューとして作られていますが、、、 ノンスキャロップとなるとカスタムオーダーをしなくてはなりません。 それを考えると、希少性もあり、とてもお得感があると思うんですよね。 ノンスキャロップならではの芯のある力強い音色、そしてヴィンテージマホガニーならではのレスポンスの良さと、芳醇な中高音域。 優しく爪弾...

アコースティックギターのスタンダード『ドレッドノート』

英国の戦艦、HMS Dreadnoughtから名付けられたボディスタイル。 それがアコースティックギターのスタンダードと言って過言ではない『ドレッドノート』です。  日本でもこの戦艦の名前から「超弩級」などの言葉が作られるほど(弩がドレッドノートからきているそうです)、 当時は強い影響を与えていたようで、Wikipediaなどを読んでみても、かなり革新的な戦艦だったことがわかります。 ↓↓↓ Wikipediaはコチラ    そしてこのドレッドノートの誕生は、この戦艦の名前に負けないほど、アコースティックギターの歴史における革新的な出来事となったのでした。 そもそものはじまりは、1916年。 フランク・ヘンリー・マーティンがボストンの楽器販売会社ディットソンにOEMとして製作を依頼したことに遡ります。 単純に他の楽器にも負けない大きな音量が求められたのかもしれませんが、、、 当時の演奏スタイルの変化から、より歌伴に合うギターが求められるようになったことが、このボディシェイプを生み出した大きな要因ではないでしょうか。 より大きな音量を出すための広いトップの面積、幅が広く深さもあるボディサイズ。  そして豊かなダイナミックレンジと倍音を引き出すためのくびれの少ないボディシェイプ。 それまでのクラシックギターからの流れを汲むシェイプからみると、あきらかに新しい設計が試みられていますよね。  この ディットソン社は1920年代後半に廃業してしまうのですが、このデザインに可能性を見出したマーティン社によって、開発が続けられていきます。  そして1931年には12フレットジョイントのD-1、D-2という名称で製作され、さらには1934年になり、現在と同じ14フレットジョイントに変更された D-18、D-28が誕生したというわけです。  このドレッドノートが、開発されてから80年以上たった今でも、アコースティックギターのスタンダードとして使われ続けているとは、誰が予想できたことでしょうか。 それだけアコースティックギターとして、究極のデザインというわけですよね。 というわけで、次回はマホガニー図鑑「Martin D-18」です!...

(続)コリングスの新作は、パーラーギターだそうな。

コリングスの新作、パーラーギターの追加情報です。  で、今回のパーラーですが、マーティンで言うところの『2サイズ』なんだそうですね。  これはコリングスの今までの最小サイズだったBabyシリーズと同じサイズだそうです。 そもそもBabyシリーズは、OMサイズの3/4くらいのサイズだと言うのは知っていたのですが『2サイズ』だったということは知りませんでした。 つまり、この新しいParlorシリーズは、Babyシリーズを12フレットジョイントにして、スロテッドヘットにし、トラディショナルシリーズで培った技術を注ぎ込んだ、、、  と言ったギターと言うわけですね。 あくまでも推測ですが、 小さいギターにありがちな音が立ちすぎる感じみたいなものが12フレットジョイントにすることで緩和され、適度に柔らかさがでてきたり、、、  スロテッドヘットにすることで、ショートスケールでのテンション感の低下を補い、音量やサステインを稼いだり、、、  これは、Babyシリーズの弱点を補った良い設計かもしれませんね。 と言うよりは、ヴィンテージマーティンの設計の素晴らしさを再確認できたと言うべきなのかもしれませんが。 ついでですが、新しい動画もアップされていたのでご紹介しておこうかと思います。

コリングスの新作は、パーラーギターだそうな。

ビル・コリングスの遺作となったトラディショナル・シリーズに続いて、早くも新作の登場です。  私は小さいギターが好物なのでわかりますが、世の中的には、意外と需要があるんですかね。 そういわれてみると、Blue-Gさんでもパーラーギターを多く仕入れられていましたね。  19世紀ギター的なサイズ感。 美しいボディシェイプ。 小さいギターが好きな私にとってはたまらないものがあります。  作りとしては、 ・トラディショナル・ヴォイシング ・極薄ラッカー塗装 ・ニカワ接着 ・ハンドメイドのコリングス・ケース などなど。  と、トラディショナル・シリーズで得た技術を活用しているわけですね。  過去のモデルでも、ここまで技術を横展開したシリーズはないので、余程、トラディショナル・シリーズに自信があるのでしょうね。  世界的にもトラディショナル・シリーズの評価が高いのかもしれません。  現時点でYouTubeにアップされているのは、オールマホガニーのパーラーギターだけですが、その音色、バランスの良さなどは十分に伝わってきます。  問題は今までのシングルオーサイズと、ベイビーコリングスとのポジショニングですかね。 選択肢が増えることは嬉しいことですが、既に小型ギターを持っている人は心が揺れますよね。 音はホンモノそうなだけに、悩ましい限りです。

追悼:ビル・コリングス(1948-2017)

70年代から多くのギターのリペアを行い、 そして数多くのヴィンテージギターを 研究してきたビル・コリングス。 彼のヴィンテージギターのサウンドを 再現したいという強い想いは、 とてつもなく高い精度のギターを産み出し、 アコースティックギターの業界を 圧倒していきました。 コリングスの設立が1988年。 その後、90年代に入り 順調に 規模を拡大していきますが、 その背景にはエリック・クラプトンによる アンプラグドブームの力もあったのかも しれませんね。 クラプトンの弾いているギターは何なんだ。 ヴィンテージギターとはあんなに いい音がするものなのか! などと世間が盛り上がっていた時、 ヴィンテージサウンドの再現として、 コリングスもきっと注目されたのでしょう。 そして このヴィンテージサウンドの再現は、 本家本元のマーティンにとっても 脅威になったはずです。 個人ルシアであればともかく、 年間1000本以上のギターをあれだけの 質、精度で量産できたわけですからね。 マーティンも、1999年から、 プリウォーを意識した ゴールデンエラシリーズ、 マーキスシリーズ、 オーセンティックシリーズなどを 開発しましたが、それらは、彼の存在なしには 開発されることすらなかったかもしれません。 ビル・コリングスの作るギターは、 ヴィンテージギターを再現するだけではなく、 楽器として、とても実用的・実践的なものに 仕上げられています。 塗装面でも、当初はマーティンと同じ ラッカー塗装から、実用性を重視した UV塗装とラッカーのミックスに変わりました。 その後、音質を追求したヴァーニッシュ フィニッシュと変わっていき、昨年発売された トラディショナルシリーズでは、再度、 ラッカー塗装が復活するなど、、、 さすがに、ちょっとブレすぎかなとも 思うのですが、この飽くなき探究心というのは クラフトマンシップの賜物ですかね。 そしてビルの最後の作品となった トラディショナルシリーズ。 ついに、ヴィンテージサウンドの肝と 言われているニカワを採用しましたね。 しかも、マーティンの オーセンティックシリーズのように全てに ニカワを使うのではなく、 音質に影響のある部分にだけ使うこだわり。 マーティンのように単純に仕様や工法を...

クラシックギターから学ぶ③(爪のケア・強くする方法)

前回に引き続き爪の話題です。 私自身、真面目に練習を始めてから三年半ほど経ちましたが、、、 実は、ほぼ爪が割れることはなくなりました。 私の弦の弾き方が上手くなったのか、日常生活で気を使えるようになったのか。 理由はわかりませんが、割れてないですね。 さすがに、昨年、久しぶりにガチでボーリングをやったら割れてしまいましたが(笑) と言ったところで、、、 クラシックギタリストの金庸太さんがオススメしていた爪の強化方法は、、、 人肌に温めたオリーブオイルに数分間、爪を浸すというもの。 これは世界的に有名なギタリストの ホセ・ルイス・ゴンザレス推奨の方法だそうです。 そして、さらに効果があるのが馬油とのこと。 浸透力が強いらしいです。 どちらにも共通しているのは、爪に油分を与えるということですね。 オイルそのものがいいのか、何かサプリ的な栄養素が含まれているのかはわかりませんが。 ついでに、、、 先日ギター屋さんですすめられた商品が良かったので、紹介しておこうかなと思います。 早稲田大学の並木秀男名誉教授が再生医療の観点から開発したネイルトリートメントジェルです 。 ↓↓↓ 商品説明 成分等の違いはわかりませんが、男性用が黒(中身は青)、女性用が赤のパッケージになっています。 再生医療の研究により得られた、爪細胞の再生に特化したアミノ酸を最適な比率で配合しているとのこと。 新しい爪を作るのは爪の根元の爪母、爪根と言われる部分だそうで、そこに浸透力の高いジェルを塗ってあげます。 某楽器屋さんの勧めで試しに購入し、しばらく使っているのですが、確かにコンディションが良くなっています。 個人的に気に入ったのはオイルフリーでベタつかないということ。 前述したクラシックギタリストの方法論だと間違いなくベタつきますからね。 日常生活を送る上では、間違いなくこちらの方が使いやすい。 それと、角質が変化した爪(=死んでしまった細胞)を保湿するよりも、爪が作られる部分をケアするという発想の方が、結果として爪の強化に繋がるのかなとも思いました。 最後に、、、 自分の身体特徴が音に直接影響する、こんな素晴らしい、そして面倒くさい楽器はない。 これは、クラシックギタリス...

クラシックギターから学ぶ②(爪の長さ・形編)

今回はクラシックギターやソロギターで重要な爪の話題を取り上げたいと思います。 他の教則本同様、この本の中でも基本的な爪の形、長さや、ケアの仕方などが書かれていますね。 そう言った中で私が気になったのが、 「爪の長さがタッチに影響がありますか?」 という質問でした。 これにクラシックギタリストの永島志基さんはこう答えています。 指の各個人の個体差 爪の質感 出したい音 音楽性 演奏曲の作曲家の音楽的時代考証 気候 現場での椅子の高さ その日の雰囲気や気分 によってタッチを変えると。 つまり、プロとはいえども、もしくはプロであればなおさら、タッチの仕方も音色も一定ではないということがわかりますよね。 となってくると我々アマチュアがタッチ、タッチと言っているのは一体何を求めているのかなと考えてしまいました。 まずは、タッチ云々よりも、自分が出したい音は何なのかを理解することが、自分のタッチを見つける第一歩なのではないかなと。 また、、、 長めの場合は長い爪をリリースするために右手がフラットになる 短めの場合は、右手をやや立てるようになる といった記載も気になりました。 ここからは、爪の長さと右手のフォームが連動していることがわかりますね。 となると、 右手のフォームを決めてから爪を調整するのか、出したい音に爪を合わせてから右手の角度を調整するのか。 答えはその両方だとは思いますが、実に奥の深い話ですね。 上辺だけの教則本とは異なり、何度も読み返すことで、いろいろ学べることが多そうです。 勉強になります。

クラシックギターから学ぶ①(演奏フォーム編)

私はスチール弦のアコースティックギター専門なわけですが、いつも不思議に感じることがあります。 それは、なぜアコースティックギターの人は、クラシックギターから学ばないのかと言うことです。 では、クラシックギターはいつできたのでしょうかね。 いつから、どこからをギターと呼ぶかは難しいのですが、16世紀のビウエラがルーツとする説があります。 また、演奏と言う観点では、、、 教則で定番のアグアド、ソル、ジュリアーニ、カルリ、カルカッシは18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍していました。 そして、現在のクラシックギターは、ギター製作家のアントニオ・デ・トーレス(1817-1885)が確立したとされています。 つまり、少なくともクラシックギターの歴史は100~200年はあるわけです。 ここで得られた知見を活用しない手はないと思うのですが、いかがでしょうか。 そんな時にオススメの本がこれ。 「クラシックギターQ&A 52人のプロが答える164問」 クラシックギターに関わる164の質問に、日本で活躍する代表的プロ・ギタリスト、ギター製作家52人が回答すると言うもの。 完売していた「最新版ギター読本上達のためのQ&A」の改定新版だそうです。 正直、昔、受験勉強で使った一問一答形式になっていて、とても読みにくいです(笑) が、読みやすくて内容の薄い本とは異なり、かなり濃いです。 そんな中でも気になるテーマをいくつかご紹介したいなと。 まずはフォームから。 「右足に乗せるか、左足にのせるか」 よく議論になりますが、クラシックギタリストの中島晴美さんは、左足乗せにする利点をこう語っています。 ・左手のポジション移動を容易にする ・右手上腕部を緊張させず、自由度を高める なるほど。 それと、高度な曲を弾くには左足乗せの方がいいとも言っていますね。 これはギターを演奏をするにあたり、理にかなったフォームなのでしょう。 それでもアコースティックギター界隈では、どちらがいいのかという議論が続いています。 どうしてなのでしょうかね。 そんな中で私が前から思っていたことを文書にしてくれていた部分が、ありました。 「崩していた方が弾きやすい(右足乗せ)というのは、...

伊藤賢一さんの、Another Frameを聴く。

伊藤さんの作品を聴いて感じること。 それは「音楽」だと言うことです。 そんなこと当たり前じゃないかと言われるかもしれませんが、、、 そう思わせない作品が多いとは思いませんか? また、ソロギターの作品というと、どうしてもギタリストによる、ギタリストのための作品というイメージがありますよね。 でも、伊藤さんの作品は明らかに違うと思います。 そして、伊藤さんのどの作品でも感じられるのですが、伊藤さんの音楽にある情景が私の琴線に響くんです。 うまく表現できませんが、自分の幼い頃の情景が思い浮かぶというか、辛かった頃を思い出すような不思議な感覚。 そして、暗さや、孤独感、物悲しさを感じさせながらも、どこかポジティブな何かを感じさせられるんです。 うまく伝えられないですが、伊藤さんの楽曲には絶望ではなく希望が根底にあるのではないかと。 メロディラインもとても普遍的なものでありながらも、どこか心に引っかかる何かがある。 それが伊藤さんのメロディラインだし、アレンジの妙なのだなと。 ぶっちゃけ、「Inner Midium」、「おかえり」、「道のりのどこか」、このキラーチューン三曲だけで十分といえる出来栄えだと思います。 それに期待を裏切らないアイリッシュチューンのCarolan’s Ramble to Cashel、ソリチュード二重奏、ジーン・マリー・レイモンド氏のカバーが添えられていますからね。 これだけでも、アルバムの品質の高さがわかります。 そして、伊藤さん自身がようやく「これが良い音です」と確信を持てたという、素晴らしい録音。 ギタリストとか、ソロギターの作品としてではなく、その他多くの音楽作品と同列で扱うべき作品だと思います。 これだけの品質の作品を聴いて同業他社はどう感じるのか。本音を聞いてみたいなと思ってしまいました。 最後にマホガニー的な観点では、1952年製のMartin D-18と、M.J. FranksのD-18 Legacy Dreadnought(サイドバックはキューバンマホガニー)も使われています!