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「乾燥対策としてのオイル塗布」アコースティックギターのメンテナンスについて考える③

今回は、もうひとつメンテナンスで話題になりやすいオイル塗布について。 よく言われるのは、、、 ブリッジや指板は塗装されていないから、オイルを塗って、乾燥を避けるべきという考え方です。 なんとなく理解はできるものの、オイルの効果を実感するのは難しいですよね。 ちなみに、この本を監修している小倉よしおさんは、オイル塗る派ですね。 また、楽器屋さんもオイル塗る派が多いように感じています。 この両者に共通しているのは、奏者や顧客に綺麗な状態で楽器を渡す必要があるということです。 つまり、楽器を綺麗にできて、、、 なおかつ、木材の割れ防止に効果がある可能性があるのであれば、塗る方が合理的なわけです。 では、我々一般人はどうすべきなのか。 簡単なのは、面倒だし、オイル代もかかるので、オイルなんて不用と割り切ってしまうことです。 実際のところ、塗らなくても問題ない人もいるし、塗っても割れちゃう人もいますからね。 ただ、指板を綺麗にしておきたいと、少しでも思うのであれば、手垢で汚れた夏の終わりや、冬の乾燥期にオイルで掃除をするのが良いと思います。 ギターは綺麗な方が良いですし、都市伝説かもしれない割れ防止に効果があるかもしれませんからね。 ただ、極論をいうと、、、 乾燥対策としてオイルを塗るくらいなら、何よりもまず、部屋の湿度をコントロールすべきです。 オイルを塗ったところで、室内が乾燥していれば割れやすくなりますし、それ以前に、ネックやトップなど、他の箇所にも影響が出るはずです。 そのため、湿度が難しいのであれば、塗装されていない部分にはオイルを塗り、サウンドホールには黒澤楽器のGuitar Breathのような調湿グッズを付ける。 これが、望ましい対応方法になります。 つまり、保管する環境によって、望ましい対応方法が異なるわけです。 このオイルの記事は、良い例だと思って取り上げてみたのですが、大切なのは、人によって答えはひとつではないということなのです。 自分の環境にあったメンテナンス方法を見つけるためにも、この本をベースにすることが有意義なのではないかと。 そう言った意味で、とても使える本...

「弦を緩めるか、緩めないか」アコースティックギターのメンテナンスについて考える②

前回に引き続き、メンテナンスについて考えます。 その中でも、よく議論になる「弦を緩めるか、緩めないか」を取り上げてみたいなと。 昨年お邪魔した鷲見工房でのこと。 色々お話をさせていただいたのですが、、、 なんと、日本を代表するルシアの鷲見さんは、弦を緩めない派だということを知ったのです。 「むしろ緩めないで下さい!」とまで言われたので、正直、驚いてしまいました。 でも、色々話しているうちに、その理由がわかってきました。 というのも、あくまでも「鷲見ギターの場合は」ということなんですよね。 ではなぜ、鷲見ギターは、弦を緩めてはいけないのか。 それを知るためには、鷲見ギターの設計思想を理解する必要があります。 鷲見ギターの設計思想は以下の通り。 木(ネック)は動くものである 弦を緩めなければネックは純反り方向に動く 純反りしたら、トラストロッドを回して、戻してやればいい 弦の張力でブリッジ付近が膨らむことを避けるため、力木で補強する 実にシンプルで合理的な考え方ですよね。 つまり、鷲見さんは緩めない派ではありますが、、、 ネックは曲がるし、弦を張りっぱなしの状態では、ブリッジ付近が膨らんでしまうことを前提にして、設計しているわけです。 てば、マーティンの場合はどうなのか。 ネックのロッド材の歴史から紐解いてみましょう。 エボニーロッド(~1934) スティールTバーロッド(1934-1967) スクエアロッド(1967-1987) アジャスタブルロッド(1987) つまり、マーティンの歴史から学べることとしては、 木製のエボニーロッドよりも、頑丈な鉄製のTバーロッドが求められた 同じ鉄製でも、さらに強固なスクエアロッド(SQ)が求められた それでもネックは反るので、調整可能なアジャスタブルロッド(AJ)を採用した と言った、ネックトラブルに対応してきた歴史がわかるわけです。 AJロッドの採用には、ネック材として使われているマホガニーの材質が低下してしまったことも一因とされていますね。 そして、AJロッドにして、調整できるようになったからといって、弦を緩めなくていいの...

「点検方法&セッティング」アコースティックギターのメンテナンスについて考える①

ありそうでなかったアコギのメンテナンス本 アコギのメンテナンス方法って本当に十人十色、千差万別です。 その中でも「弦を緩めるか、緩めないか」は、よく議論になるテーマのひとつですよね。 ギターの設計や作りによって違いがあるはずなのに、ずーっと平行線の議論が続いています。 今回はそんな混迷極めるアコースティックギターのメンテナンスに、一定の指針となるであろう本をご紹介したいと思います。 それは「アコースティック・ギター・メインテナンス・ガイド プロの現場の調整術」です。 結論から言うと「良い本」だと思います。 ただ、目新しい情報を期待すると、ちょっと裏切られるかもしれません。 書かれていることは極めてオーソドックスで、常識的なことばかりですからね。 しかも、ネットにこれだけ情報が溢れている時代です。 探そうと思えば、同じ情報はいくらでも手に入れることができます。 でも、メンテナンスについて、これだけ体系だってまとまっているものってなかなかないんですよね。 しかも、日本語版は初めてではないでしょうか。 というわけで、ありそうでなかったメンテ本を紹介しておきたいなと。 この本ですが、3つのテーマに分かれています。 点検方法 セッティング(弦交換含む) メンテナンス(保管と運搬) 点検方法については、かなり詳しく載っています。 どれくらい詳しいかというと、無精者の私では、絶対にやらないレベルの細かさです(笑) しかも、いくら点検したところで、異常に気付いた時には「時既に遅し」ですからね。 だったら、点検よりも、日々のメンテナンスに力を入れた方がいいと、個人的には考えます。 ということもあって、どちらかというと、楽器を購入する時に使える知識かなと思いました。 ヴィンテージや中古を買う時はもちろんのこと。 個人的には、むしろ、新品のギターでも確認することをお勧めします。 新しいギターの方が木が、木が動きやすかったりしますからね。 続いて、セッティングです。 この章を読むにあたって、注意した方が良いと思うことがあります。 それは、この本を監修された小倉よし...

伊藤賢一「ギター・リサイタル」に行ってきました(2015年)

左から、小川さんのLowden、Larrivee、伊藤さんのKen Oya、Hermann Hauser II 遅くなりましたが、伊藤賢一さんのライブに行ってきました。 会場は、新宿の東京オペラシティにある「近江楽堂」。 普段はクラシックの室内楽で使われるようなホールです。 とても音響が良く、拍手をするだけでも、会場全体に音が響き渡ります。 伊藤さん曰く、、、 「 過去にガット弦での演奏会はあったが、スチール弦での独奏は初めてではないか 」とのことです。 いやが上にも期待が高まります。 会場も100人ほどのキャパでしたが、満員御礼でした。 結論から言うと、 完全に好みな内容 でした。 もちろん、伊藤さんの演奏や楽曲の良さもあります。 でも、それ以上に 「生音」に対するこだわりに感銘を受けた んですよね。 今は、エレアコ全盛ですからね。 こういった音響の良い会場での生音ライブは堪らないものがあります。 そして、、、 クラシックギターを学ばれていた伊藤さんだからからこそ出せる、 表現力豊かな色鮮やかな音色 。 深く、美しく、どこまでも澄んだ音色の 大屋ギターと、ハウザー二世。 独特な世界観のある素晴らしい音色でした 。 また、音楽を聴く、観ることの意味も考えさせられました。 伊藤さん曰く「 音楽は耳で聞くだけではなく、体でも感じるものだと 」 よくよく考えてみると、アコースティックな楽器ってそういうものですよね。 特に、自分でもギターを弾かれる方であれば、普段からその音を全身で感じているわけですからね。 私もギタリストのはしくれとして、 スピーカーやヘッドホンでは再現できない「アコースティックギターの音色」の素晴らしさをもっと伝えていきたい と思いました。 そして、奏者の緊張感や息遣い、手の筋肉の動きから表情の変化まで、鮮明に伝わるこの小規模なホールならではの距離感。 こういった視覚的なものも、ライブでは欠かせない要素のひとつだなと再認識させられました。 また、小川倫生さんもゲスト出演されました。 二人の馴れ初めや、先日発売された伊藤さんとのデュオL...

マホガニー図鑑「Martin 000-18(1941&1963年製)」④

左が1941年製、右が1963年製。ブレーシングの違いがよくわかります。 もうひとつの大きな違いはブレーシングです。 '41年製はスキャロップブレーシング、'63年製はノンスキャロップです。 画像で比較すると、違いがわかりやすいですね。 スキャロップは、トップを支える力木を削ることで、トップを振動しやすくしてあります。 そのため、軽く爪弾いただけでもよく鳴るし、響くのですね。 Style 45のようなダイナミックレンジの広い「鈴鳴り」の倍音感とは違いますが、スキャロップとアディロン・マホの組み合わせが生み出す、この濃厚な倍音感は極上です。 と、一見良いところばかりに見えるスキャロップですが、'44年になると廃止されてしまいます。 なぜかと言うと、、、 この頃になると、演奏する環境や音楽のスタイルが変わってきて、より大きな音量が求められるようになっていたんですね。 それによって、ギターが大型化してきたという歴史があるわけですが、それと同時に、弦もより太いものが求められるようになっていきました。 そして、弦が太くなることで、テンションが強くなり、ギターの故障の原因になってしまったのです。 そこで、スキャロップを廃止し、ギターの強度を高めようと考えたわけです。 また、'38年以前のものと比較すると、Xブレーシングのクロス位置がブリッジ側にシフトしています。 そのため、'38年以前をフォワードシフト、'39年以降をリアシフトと呼んでいます。 この仕様は、近年のゴールデンエラや、オーセンティックシリーズなどで再現されていますね。 このリアシフトですが、強度を高めるための仕様変更ということもあって、鳴りは弱まっています。 それでも、スキャロップ特有の響きは、十分に感じることができると思います。 一方、ノンスキャロップですが、音の「芯」が特徴になります。 「芯」というのはわかりにくい表現かもしれませんが、スキャロップのように音が広がるのではなく、基音がしっかりとしていて、まっすぐに伸びるようなイメージです。 ただ、PAシステムが発達した今となっては、...

マホガニー図鑑「Martin 000-18(1941&1963年製)」③

左が1941年製、右が1963年製。驚異的な'41年製の美しさ! 1941年製と1963年製の最大の違いはトップ材です。 '41年製はアディロンダックスプルース、'63年製はシトカスプルースが使われています。 なんとなくですが、、、 「アディロントップのプリウォー最高!シトカトップの'60年代普通!」 といった予想をしていたのですが、意外や意外。 実際に弾き比べてみると、、、 やはり、プリウォーは素晴らしかったです(笑) でも、トップ材やスキャロップの有無による音色の違いというものも感じられますが、不思議とこの二本の共通点というものが見えてきたんですよね。 それは、バランスの良さです。 ヴィンテージの魅力というと、材の乾燥や、弾きこまれたことによって熟成された音色というのが一般的ですよね。 特に、プリウォーともなると「激鳴り!爆鳴り!極太!」なんて音量に関する表現が多い気がします。 幸運なことに私は、それなりの本数のプリウォーを試奏させて頂いたことがありますが、個人的には、そういった音量的なことよりも、バランスの良さに惹かれることが多いんですよね。 6本の弦の音が全て繋がっているというか、単音だけでも十分に個性的で魅力的な音色が、和音になっても、とてつもなく高度にバランシングできているというか。 文章だけではうまく表現できない、不思議な体験です。 そういった、プリウォーの魅力の秘密について、あらためて考えてみたいなと。 今では手に入れることのできない、素晴らしい材もひとつの理由ですよね。 でも、同等の材が使われているはずの'40年代のヴィンテージと比較しても、明らかに音色に違いがあるんですよね。 しかも、'40年代であれば、弾きこまれた年月もそれほど大きな差はないはずですからね。 もちろん、仕様の違いがあるので、単純に比較することはできませんよ。 でも、スキャロップの有無やロッド材の違い(エボニーロッドとスチールTバー)といった違いを差し引いたとしても、大きな差を感じるんですよね。 となると、残されているのは「作りの違い」ではないかと。 これは近年のルシアもののブームとも一致していますね。 つまり、行きつ...

マホガニー図鑑「Martin 000-18(1941&1963年製)」②

Martin OOO-18(1941年製) 続いて、1941年製です。 '41年ということもあって、紛れも無いプリウォーなのですが、このプリウォーという言葉の定義にも、諸説あるようですね。 歴史的に見れば、日本の真珠湾攻撃や、米国が連合国に加わった'41年までをプリウォーと定義できると思います。 ただ、難しい歴史の話をしたいわけではなく、単純にギターの仕様を分類したいだけですからね。 ですので、このブログでは、ネックのロッドが鉄製のTバーが使われているものをプリウォー、戦争によって鉄の使用が制限され、エボニーで代替していた時期をウォータイムと呼びたいと思います。 もちろん、この'41年製はTバーロッドです。 また、プリウォーというと、近年のオーセンティックシリーズやゴールデンエラシリーズの影響で、ブリッジと指板にはエボニーが使われているというイメージがありますよね。 でも、この'41年製にはハカランダが使われているんです。 というのも、ドレッドノートを除くマホガニーのStyle 18では、'39年以降は全てエボニーからハカランダに変更されたのです。 実際には、'35年頃からエボニーからハカランダへの移行が始まっていたそうで。 そのため、過渡期にあたる'35年から'39年までは、エボニーとハカランダの仕様のものが混在しているそうです。 音色的には、ハカランダはエボニーに比べ、柔らかくて軽やかな印象がありますね。 エボニーの方が重くて、引き締まった質感です。 ナット幅も、プリウォーというと、44.5ミリのワイドネックというイメージがありますが、'39年頃からは42〜43ミリの細身のシェイプに変更されています。 そのため、ワイドネックが苦手な人には、この年代が狙い目となるわけですね。 また、'38年以前のものよりも、ネックが軽量化された影響で、より軽やかでヌケの良い音色になっています。 よくいう、ヘッドの先まで振動するかのようなヴィンテージ感は、この仕様が一番味わえます。 さらに、トップ材のアディロンダックスプルースが美しい響きを生み...

マホガニー図鑑「Martin 000-18(1941&1963年製)」①

Martin OOO-18(1963年製) マホガニー図鑑の第四弾として、今回は友人所有の1941年と1963年の「Martin 000-18」を紹介したいと思います。 まずは、トリプルオー・サイズのおさらいをしてみましょう。 トリプルオーが初めて作られたのは1902年のこと。 それまでの最大サイズだったダブルオーから、ボディの横幅を広げることで容積を広げ、より大きな音量を出力できるように改良されたものでした。 そのため、その後、さらに大音量が出せるドレッドノートが開発されてからは、人気は下火となり、ストロークプレイ中心のフォークブームが訪れると、より一層、製造本数が落ち込んでしまいました。 それが1992年のこと。 エリック・クラプトンがMTVアンプラグドで「000-42」を使用したことで状況が一変します。 インターネットもなく、情報が少ない時代でしたからね。 あの凄い音のギターは何なんだと、話題になったわけです。 そしてトリプルオーを実際に弾いてみると、、、 フィンガーでもストロークでも使える万能さ 弾き方ひとつで、ロック・ポップスから、ブルースやジャズまで対応できる表現力 スモールボディならではの弾き手の思い通りに反応する優れたレスポンス 低音から高音までのバランスの良さと、マイク乗りの良さ などなど。 トリプルオーの能力が再評価されることになったわけですね。 そして、その後に発売された「000-28EC」が爆発的なセールスを記録しました。 かく言う私も、初めてのマーティンはクラプトンモデルだったわけですが。 というところで、1963年製のトリプルオーから紹介したいと思います。 以前にも紹介しましたが、この'60年代は様々な仕様変更が行われた年代です。 ということもあって、まずは、仕様の確認をしておきましょう。 Style 18ですので、トップはシトカスプルース、サイドバックはマホガニーです。 '60年代の特徴としては、ハカランダが使われたブリッジと指板があげられます。 今でこそ高価なハカランダですが、この当時は、普通の材として扱われていたんですね。 そして...

「ギター支持具・ダイナレット」39歳からの本格アコギ

ドイツ製のダイナレット(サイズは大) ギター支持具は、ギターを固定し、高さ、角度を調整する器具です。 足台を使うと、片足だけを乗せて演奏するので、腰や骨盤に負担がかかってしまうんですよね。 それが支持具を使うと、足をフラットにした状態で構えることができるので、腰痛対策になるのではないかと考えたわけです。 さらに、ギターと身体との接点を減らせるので、ヴィンテージの弱点である塗装の白濁などを回避することができるのではないかと。 調べてみると、ギターレストと呼ばれるボディに取り付ける器具が主流なようですね。 ただ、ギターを直接固定するので、本体にダメージを与えてしまうかもしれません。 といったところで、私が気になったのは、ダイナレットと呼ばれる枕のような形をしたものです。 中身はウレタンで柔らかく、まわりは革製なので、ギターを傷めることがなさそうです。 メーカーHPはこちら ↓↓↓ http://www.vamu.se というわけで、試しに購入してみました。 でも、現在、フォーム改良中で、左足乗せも安定していない状態ですからね。 練習を重ねつつ、使い心地などをまたご報告したいと考えています。 ちなみに、サイズは2種類あって、大が高さ15cm、小が高さ12cm。 身長177cmの私が使うと、大でちょうどよい感じです。 ギターを乗せた時の傾斜が本当に絶妙なんですよね。 素晴らしい!