前回に引き続き、メンテナンスについて考えます。
その中でも、よく議論になる「弦を緩めるか、緩めないか」を取り上げてみたいなと。
昨年お邪魔した鷲見工房でのこと。
色々お話をさせていただいたのですが、、、
なんと、日本を代表するルシアの鷲見さんは、弦を緩めない派だということを知ったのです。
なんと、日本を代表するルシアの鷲見さんは、弦を緩めない派だということを知ったのです。
「むしろ緩めないで下さい!」とまで言われたので、正直、驚いてしまいました。
でも、色々話しているうちに、その理由がわかってきました。
というのも、あくまでも「鷲見ギターの場合は」ということなんですよね。
ではなぜ、鷲見ギターは、弦を緩めてはいけないのか。
それを知るためには、鷲見ギターの設計思想を理解する必要があります。
鷲見ギターの設計思想は以下の通り。
- 木(ネック)は動くものである
- 弦を緩めなければネックは純反り方向に動く
- 純反りしたら、トラストロッドを回して、戻してやればいい
- 弦の張力でブリッジ付近が膨らむことを避けるため、力木で補強する
実にシンプルで合理的な考え方ですよね。
つまり、鷲見さんは緩めない派ではありますが、、、
ネックは曲がるし、弦を張りっぱなしの状態では、ブリッジ付近が膨らんでしまうことを前提にして、設計しているわけです。
ネックは曲がるし、弦を張りっぱなしの状態では、ブリッジ付近が膨らんでしまうことを前提にして、設計しているわけです。
てば、マーティンの場合はどうなのか。
ネックのロッド材の歴史から紐解いてみましょう。
- エボニーロッド(~1934)
- スティールTバーロッド(1934-1967)
- スクエアロッド(1967-1987)
- アジャスタブルロッド(1987)
つまり、マーティンの歴史から学べることとしては、
- 木製のエボニーロッドよりも、頑丈な鉄製のTバーロッドが求められた
- 同じ鉄製でも、さらに強固なスクエアロッド(SQ)が求められた
- それでもネックは反るので、調整可能なアジャスタブルロッド(AJ)を採用した
と言った、ネックトラブルに対応してきた歴史がわかるわけです。
AJロッドの採用には、ネック材として使われているマホガニーの材質が低下してしまったことも一因とされていますね。
そして、AJロッドにして、調整できるようになったからといって、弦を緩めなくていいのかというと、そうではないのがマーティンの難しいところ。
緩めないままにすると、弦の張力でブリッジ付近が膨らんでしまう、いわゆる「お腹が出た状態」になってしまう可能性があるのです。
トップ材を力木で、どう補強するのかによって、音色や響きが大きく変わってきますので、このバランスをどうとるのかが、設計者の腕の見せ所なんですね。
同様に、ネックとボディのジョイント方式も重要になってきます。
マーティンでは、ダブテイル(鳩のしっぽ)という接続方式を採用しています。
結合部分を鳩のしっぽのような木の形にして組み合わせることから、こう呼ばれています。
これもマーティンサウンドの肝と言われていますが、木を組み合わせ、接着しているしているだけなので、ネックの元起きと呼ばれる症状が出やすいのです。
こうなると、高額なネックリセットが必要になってしまうんですよね。
だから、楽器屋さんは必ずマーティンの弦を緩めるのです。
緩める必要がなければ、楽器屋さんのようなプロが、わざわざ手間のかかることはしませんからね。
一方、テイラーやコリングスは、ボルトジョイントを採用して、調整しやすくしてあります。
つまり、マーティンからの改善点として、使いやすさと強度を売りにしているわけです。
でも、この弱さがあってこそのマーティンサウンドなわけで。
音色を取るのか、使い勝手を取るのか。
だからこそ、ギター選びは難しくもあり、楽しくもあるのですが。
また、緩めなくても曲がらないものもあるし、緩めても曲がるものもある。
だから、いろいろな説が飛び交ってしまうんですね。
少なくとも、楽器ごとにその「設計思想を理解すること」
これこそがメンテナンスの第一歩なのではないかと思います。
これこそがメンテナンスの第一歩なのではないかと思います。