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カオルギター現る!『裏』ハンドクラフトギターフェス2023開催!


※画像左:Kaoru Guitar / Rush the Blood Deluxe
 画像右:Kaoru Guitar / Rush the Blood OM Cutaway Deluxe


毎年恒例のハンドクラフトギターフェスが開催されましたね。コロナもひと段落ということで、かなり盛況だったそうですね。


私自身はフェスには行けなかったのですが、ちょうど同じ日に、仲間内で緊急招集がかかったんですよね。なんと、カオルギターの新作が二本もお茶の水のHobo'sに入荷したというのです。これは行かねばなりません。こちらも、完全にフェス状態です。


ネットなどで調べてみても、極めて情報が少ないカオルギターということもありますので、私の知りうる情報をまとめておきたいと思います。


製作者は中島 馨氏。中学生時代に雑誌で見たドク・ワトソンの記事で、ギターの個人製作家の存在を知り、アコースティックギター製作の道を志す。中学卒業後にHEADWAY社に就職したが、当時は空前のバンドブームと言うこともあり、エレキギターの製作が中心だったとのこと。


そのため、地元熊本に戻って職業訓練所で木工製作について学び、愛媛のシーガル弦楽器工房にて塩崎 雅亮氏の一番弟子として2年間師事。1997年に熊本県にてKaoru Acoustic Craftの立ち上げに至る。その後、ジャズギタリストの渡辺香津美氏に見出され、天才ルシアとして脚光を浴びることになります。


ここで興味深いのは、昨今の日本人ルシア達とくらべて、少し早い世代だということです。あえて分類するならば、塩崎氏やSUMI工房の鷲見 英一氏の次の世代というところでしょうか。


そのため、現在とは異なり、アコースティックギターの製作に関する情報も極めて少なかった時代ですし、ビジネスの観点からもギター製作家という職業は極めて厳しい状況だったはずです。それでもギター製作に挑戦するということは、並々ならぬ情熱と、素晴らしいものをつくることができるといった自信があったということなのでしょう。


また、塩崎氏に師事したということから、極めてベーシックなマーティンスタイルの設計・製造を学んだと思われます。また当時の状況としては、海外ルシアのギターを模倣することもできなかったと思われます。


ですので、自分独自の音を作ろうと思ったら、試行錯誤を重ね、様々な創意工夫を行う必要があり、それがカオルギターのオリジナリティーに繋がったのではないかと考えます。現在のように、ギターの作り方や、実物が溢れかえっている状況では、どうしても模倣したギターになりやすいのかもしれませんね。


そして、カオルギターを語る上で欠かせないのが、日本におけるギターの神様『石川 鷹彦』氏の使用で有名な『通称:鷹モデル』ではないでしょうか。これは、当時のHobo'sの店長が所有していた『マーク・ホワイトブック※』を貸り受け、実機を元に採寸、分析を行って作り上げられたものです。この鷹モデルはその初号機にあたり、後に『Rush』と名付けられることになります。


※マーク・ホワイトブックは、1970~1980年代半ば頃に活動していた製作家で、ドレッドノートを中心に製作。製作本数は80本程度と言われ、その希少性から『幻のドレッドノート』と呼ばれたりもします。米国の個人製作家の草分け的存在ともいえるロイ・ノーブルの弟子にあたり、マーティン、ギブソンとも異なる独自の設計思想を持ったギターです。クラレンス・ホワイトやジェームス・テイラーの使用で有名ですね。また別の機会にでもご紹介したいなと考えています。



幻と呼ばれるギターが手元にあること、そしてその実物を手に取りながら、音を出しながら、設計や製作技術を学ぶこと、これはルシアとしての想像力、知的好奇心を相当に刺激するものだったのではないでしょうか。


ここからは完全に推測ではありますが、これだけ貴重なギターを貸し出していることからも、『中島 馨』の才能に惚れ込んだ当時のHobo'sの店長の心意気が感じ取れますね。普通、貸せないですよ。そしてその音色に惹かれた石川 鷹彦氏が使用するようになったわけです。まるでドラマのような展開です。


そして、今回入荷した『Rush』の肝心の音色ですが、、、


ジェームス・テイラーはマーク・ホワイトブックの音色について「マーティンのようでもあり、ギブソンのようでもある」と評しましたが、この『Rush』もそういった中庸的な音作りとなっています。私が最近好んでいる高度なバランス型というやつです。


どちらかと言うと中低音寄りの音作りで、倍音ジャラジャラのゴージャスなものではないので、一見、地味に感じてしまう人もいらっしゃるかもしれませんね。同じカオルギターでは『OWL』の方が、倍音も多く、フィンガースタイルに向いていると思います。


で、たまたま海外ルシアの最高峰と言われるエド・クラクストン(ジャーマンスプルース、ハカランダ)があったので弾き比べさせてもらったのですが、、、


誰が聞いても素晴らしいと思える音色ではあるものの、どこをどう弾いてもエド・クラクストンの音になってしまうんですよね。この強烈な個性、主張の強さこそがルシアギターの醍醐味ではあるのですが、生意気言って申し訳ないのですが、弾き手が楽器に支配されてしまう印象があるんですよね。


また、鉄弦の音色ではあるものの、あまりにも楽器としての完成度が高すぎて、別物の楽器ようにすら感じられてしまう。Somogyi(ソモギ)などでも同じ感覚になるのですが、これはアコギなのか?と思ってしまうわけです。


一方、このカオルギターは、支配されるというよりは、弾き手側がギターを支配する必要があるギターだと感じています。弾き手が出したい音を自ら引き出してあげないといけないタイプなのです。


もちろん、普通に弾くだけでも良い音がしますが、それ以上に引き出しの多いギターというわけです。この辺りが、プロの道具として、特にアコギの名手である石川 鷹彦氏が愛用した所以なのかなと想像しています。自分でコントロールできる人には尚更魅力的な楽器だと感じられるのかなと。


正直、このレベルまで来ると、低音がどうのとか、高音がどうとか、倍音が多い少ないなんてことはどうでもよく、どんな音を出したいか、そしてその弾き手の欲求にどう答えてくれるのか、という点が評価ポイントとなってきます。そこは是非、試奏して感じてもらいたいなと思います。


中島氏がギター製作において、その辺りまで意識しているのか、いないのかはわかりませんが、そう感じさせてくれるギターというのは国内、海外問わずなかなか巡り合えるものではないですね。


その辺りが、アコースティックギターの玄人筋から『中島 馨=天才』と呼ばれる所以なのかなと考えています。



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