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坂田さんの工房訪問 その①

坂田さんの工房です。

思い立ったが吉日。というわけで、山梨にあるSakata Guitarsの工房にお邪魔してきました。

坂田さんは本当に気さくな方で、会話も魅力的で面白く、到着してからぶっ通しで6時間もギター談義してしまいました(笑)。音のイメージ合わせは、私の坂田ギターへの感想や、コリングスやマーティンについて議論していく中で、だんだん、深まっていったと思います。特に面白かったのが、コリングスに関する議論でした。

コリングスは素晴らしいギターなのだけれど、音に硬さを感じる人が多い。ビル・コリングスは10年弾き込んでくれれば変わるというけれども、10年弾いてもまだ硬い(笑)。そして、ヴァーニッシュ・フィニッシュという切り札を出し、柔らかい音を実現したが、それは自分たちのギターに対する課題を認めたことになるのではないのか。

簡単にまとめるとこんな感じですね。ここで私が「坂田ギターの音は、ヴァーニッシュ・フィニッシュのコリングスに近いと感じています」とお伝えしてみました。この感覚は、坂田さんご自身も感じられていたようでした。加えて、ワニスを使わなくても、ラッカーで薄く仕上げるだけで、同じような鳴りを出すことができるようになったと言われていました。重要なのは塗装の方法や種類よりも、厚さではないかと。

また、楽器にも「音楽性」を求めるという坂田さんの考え方が自分にはしっくりきました。私自身、いろいろなアコギを弾いてきていますが、音はいいけど、このギターで何を演奏するの?っていうものが多い気がします。坂田さんは、自然と歌いたくなる音や、自然とメロディが浮かんでくるような音を目標にしていると。坂田さんを日本のグレーベンと例える人もいますが、わかる気がしましたね。

そして「とにかく、鳴りが良くて、レスポンスの良いギターであれば、あとはプレイヤーがコントロールすればいい」という考え方がいいですね。耳の痛い話ではありますが、最終的な音を出すのは演奏者ですからね。そのために坂田さんは、最良のギターを作るだけだと。坂田さん自身がシンガーソングライターということもあって、プレイヤーならではの視点が、ギター製作に反映されているのかもしれません。


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マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」 その①

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マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」 その③

「YAMAHA FG-150(1969年製)」 赤ラベルの音色は十分に魅力的だとは思います。 ただ「FG-180」の場合、合板の特性なのでしょうか。 低音を上手くコントロールできず、締まりのないモコモコと膨らんだ音になってしまうんです。 低音の膨らみを解消するには、ボディサイズを小さくすればいいというのが私の持論です。 となると「FG-180」よりも一回り小さい「FG-150」を試してみたくなりますよね。 というわけで入手してみました。 いくつかパーツは取り替えられていますが、十分にセッティングされた1969年製の「FG-150」です。 それでは、実際に弾いてみましょう。 予想通り、低音の量感が減っているので、中高音域が前面に出てきて、楽器としてのバランスがとても良いです。 それに、音の深みだったり、ヌケの良さといった、熟成したマホガニーらしさも感じられます。 ただ、 ボディサイズが小さいため、箱鳴りよりも弦鳴りが強く出るので、ヴィンテージ感は「FG-180」の方が上 ですね。 この中間のサイズが欲しかったな。 1970年代に入ると、たくさんの国産アコギが作られるようになりましたが、いろいろ調べてみると、マホガニーが使われたギターは廉価ものばかりなんですよね。 その大半がローズウッドの「D-28」や「D-35」をベースにしたものばかりですからね。 今になってみると、なぜヤマハが、国産第一号のアコギにわざわざマホガニーを選んだのか不思議に思います。 赤ラベルは、国産初のアコースティックギターとか、フォークギターの元祖とか、ジャパン・ヴィンテージとして評価されています。 でも、 個人的には、国産マホガニーの名器として評価したい と考えています。 過大評価されている部分もあるとは思いますが、コストパフォーマンスは抜群だと思います。 <関連記事> マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その① マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その② マホガニー図鑑「YAMAHA 赤ラベル」その③

「オイルを塗るのか、塗らないのか」メンテナンスについて考える④

  今回は、前回の椿油に引き続き、オイル繋がりで、指板のメンテナンスで使われるレモンオイル、オレンジオイルを取り上げてみようと思います。たかがオイルの話なのですが、これもまた以前取り上げたことのある「 弦を緩めるのか、緩めないのか 」と並び、諸説のあるテーマで、取り扱うのが面倒なネタだったりします。 「弦を緩めるのか、緩めないのか」メンテナンスについて考える② そもそも、オイルを塗った方がいいのか、悪いのか、それすらはっきりしていません。効果についても、これといって目に見えるものでもないですし、数値で表すことも難しいので、判断できないのです。 また、個人的な見解ですが、そもそも指板をオイルで綺麗に掃除するような人であれば、きっと楽器そのものも丁寧に取り扱っているはずですからね。そもそも、トラブル自体が少ないのではないかと思うわけです。つまり、その方がオイル塗った方が良いですよと言ったところで、必ずしもオイル単体の効果とは言いきれないのではないかと。 オイルを塗った方が良い派の意見としては、指板の保湿効果をあげる人が多いと感じます。オイル自体も自然蒸発しますが、少なくとも水分よりは蒸発に時間がかかるので、短期的に見れば保湿効果はあるのでしょう。でも、みなさん考えてみてください。 例えば自分の手を例にあげてみます。細胞も生きていて、水分補給もされている人間の手でさえ、冬場には乾燥して肌が荒れてしまいます。ハンドクリームを塗ったところで効果は一時的で、肌は荒れてしまいますよね。 それにも関わらず、細胞が死んでいて、かつ、自分では水分補給もできない状態になっている指板が、オイルを塗るだけで保湿が可能なのでしょうか。しかも、塗ったとしても、年に1~2回とか、多くて弦交換の都度塗るだけです。それだけで、木を乾燥から守ることができるのでしょうか。 もちろん、オイルを塗らないよりは塗った方が短期的には保湿できます。でも、乾燥対策ということであれば、指板が乾燥して問題が発生する前に、その他の部分、例えばトップ材のスプルースなどが先に影響が出てしまうのではないでしょうか。 ですので、保湿を気にするのであれば、指板にオイルを塗るような局所的な対応ではなく、ギター全体の湿度管理を徹底した方が効果的ではないかと思うわけです。 でも、リペアマンやメーカーなどでもオイルを使っているじゃな...

ネック材としてのマホガニーを考える。

ネックはプレイヤーにとって最も重要な演奏性に関わる部分です。そのため、最高のフィーリングを作り出すために、細かな調整ができるよう、製作者にとって加工しやすい素材である必要がありました。それに加えネック材には、軽さ、弾力性、剛性といった特性が求められるため、それらの特性を備えるマホガニーは、最良のネック材として扱われてきたのです。 それが2005年頃のことでした。Martin社のネックの表記が「Genuine Mahogany」から「Select Hardwood」に変更されてしまったのです。エントリークラスのモデルだけならばまだしも、Style 40系やAuthentic Seriesといった上位モデルでさえも変更されてしまったので、正直、驚かされました。もしかすると、それ以前にもマホガニー以外の素材が使われていた可能性もありますが。 ちょうどよい年代のアコギがありますので、比較してみましょう。画像左が「D-18GE(2004年製)」、右が表記が変更された後に販売された「000-18GE(2006年製)」です。木目から判断して、両方ともマホガニーネックですね。ただ、トリプルオーは、塗装が厚く、写真だとわかりにくいかもしれませんが、実物ではうっすらとマホガニー特有の黒い導管が確認できます。そのため「Select Hardwood」だからと言って、マホガニーが使われなくなったというわけではないのです。 これは人から聞いた話ですが、Martinでは「Select Hardwood」として、マホガニーや、その代替材として期待されているサペリ、クラシックギターなどでも使われているスパニッシュシダー(セドロ)を使用しているそうです。私がマホガニー以外で見たことがあるのは、スパニッシュシダーのネックで、明るめの色合いと木目から、それとなく判断できるものでした。一応、試奏はしてみましたが、音色の違いまでは感じられませんでした。 というのも、音だけの観点であれば、ネック材よりも、トップやサイドバックの個体差の方が影響は大きいですし、ネックに限定した場合でも、多くのルシアーが重要なのはネックの種類よりも密度だと言っていますからね。ですので「音」よりも「モノ」としてどこまでマホガニーにこだわるのかということになりますね。

「Collings」の試奏で学んだこと。Martinの魅力を再認識。

「Collings OM2H Cutaway(1997年)」 実はつい最近まで、 コリングスを避けていました 。 なんとなく、本能的にですが、 近づいてはいけないと思っていたからです。 弦を緩めなくても問題がないくらい丈夫だし、 ピッチも驚くほど正確で、 これで音まで良かったらショックだなと。 もしかして、私のマーティン君たちが いらなくなってしまうのではないかと。 そして、実際に弾いてみると、 めちゃくちゃ音が良いんですよね。 本当にやばいです。 ただ、値段はマーティンよりも高いし、 ヘッドが角ばっているところが 好みではなかったりするのですが、 評判通り、いや、 評判以上の素晴らしいアコギですね 、 これは。 でも、コリングスを弾いてみて わかったことがあります。 それは、マーティンでしか 出せない音があるのだなということです。 最近のマーティンの音質について、 いろいろ言われる方も多いですし、 はっきり、くっきりした音を求め コリングスに行きつく方も多いとは思いますが、 「 音の優しさ、柔らかさ、甘さ 」 がマーティンの個性なんだな ということをあらためて認識させられました。 また、マーティン愛好家からは、 音が硬いと言われるコリングスですが、 2000年代の後半からは、 柔らかい音色へシフトしています。 また、1990年代のものは、 作られてから約20年が経過し、 良い感じに枯れてきているので、 今が良い頃合いかもしれませんね。 特に、「 3桁コリングス 」などと呼ばれる 製造番号が3ケタのものは、 現在のUV塗装とは異なり、 ラッカー塗装で仕上げられているので、 音質的にも有利ということもあって、 プレミアがついてきていますからね。 ちなみに、この画像は、友人が購入した 「OM2H Cutaway(1997年製)」です。 一緒にかなりの本数を試奏して 決めた一本でしたが、 「音色、演奏性、堅牢性」の三拍子が 揃った素晴らしいアコギでした。 ※Collings関連記事   「Collings」のすすめ  「Collings」を語る。シリーズ  その①:楽器としての魅力   その②:トラディショナルシリーズの誕生   その③:トラディショナルシリーズの評価 ...