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マホガニーの達人「ジェームス・テイラーとGibson J-50」

 新企画「マホガニーの達人」です。


私がこのブログでお薦めしているサイドバックにマホガニーが使われたギター。でも、一般的には、サイドバックにローズウッドが使われたギターと比べると、万能な楽器とは言えないかもしれませんね。


ただ、言いかえると、万能ではありませんが、とても「味」のある楽器だと思うんですよね。その「味」を抜群の演奏力や、考え抜かれたアレンジの中で音楽的な魅力に昇華することができる音楽家がいるのです。この企画では、そういった人たちを「マホガニーの達人」として、紹介していきたいなと考えています。


私が真っ先に取り上げたいのがJames Taylor(ジェームス・テイラー)です。


ワーナー時代の初期三部作「Sweet Baby James(1970)」「Mud Slide Slim And The Blue Horizon(1971)」「One Man Dog(1972)」では、サイドバックにマホガニーが使われたGibson J-50を使っていることで有名ですね。


これらの作品は、1970年代のシンガー・ソング・ライターのブームを代表する名盤であるとともに、演奏・アレンジ共に現代にも通じるアコースティックギターの教科書といっても過言ではないほどの素晴らしい作品だと考えています。


また、ここでポイントとなるのが、これらの作品で聴くことのできるジェームス・テイラーの奏でる音色は、大多数の人が思い描くであろう、理想的なJ-50の音色であるということです。


ということもあって、ジェームス・テイラーの音色に憧れて、楽器屋でJ-50を試奏してみた、といった方も多いのではないでしょうか、でも、どれだけの本数を試奏してみても「あれ、違うぞ」と感じられた方は多いのではないでしょうか。


これは「アコギあるある」の定番ですよね。


私なりに検討を重ねた結果、要は「弾き方」なのだろうと言う結論に達しました。もちろん、個体差ありまくりのギブソン・ヴィンテージですからね。ジェームス・テイラーがどんなJ-50を弾いてもあの音が出せるのかというと、そんなこともないと思うのですが、少なくとも「あのタッチ」を再現できなければ、あの音は出せないわけです。


彼の音色や演奏の特徴と言うと、、、


①ソフトでウォームな彼の声質とマッチした、柔らかで広がりのある音色

②倍音が少なく、まとまりの良いコード感を活かした彼独特のオブリガード

③低音を力強いタッチで弾くことで生み出されるグルーブ感


具体的には、①は容積の大きいボディのギターをフィンガースタイルで弾いた場合の特徴、②はマホガニーを使ったギターならではの特徴、③はショートスケールならではのサステインの短さや、重くなり過ぎない低音を活かした弾き方というところでしょうか。


まさにJ-50の魅力を完全に引き出している演奏と言えるのではないでしょうか。これこそが、私の考えるマホガニーの達人による演奏だと思うわけです。


ジェームス・テイラーのJ-50ですが、仕様から1960年代と言われていますが、具体的な年式は不明とされていますね。一説には1965年のナローネックと言われたりもしますが、実際のところはどうなのでしょうか。


私の経験則では、1960~1962年頃の若干細身のネック形状の時期が、近いニュアンスを持つ個体が多い気がします。1965年に近付くと、徐々にパーカッシブな音色に変化していくイメージがあるんですよね。


もちろん個体差の大きいギブソンですので、年式によってある程度の音色の傾向はあるものの、この年代だからこういう音がするはずだと断定することもできませんし、ジェームス・テイラーのように1960年代半ばの仕様である分厚いピックガードをはがすなんてこと、なかなかできることではありませんからね。


ですので、自分の弾いた音がどこまでジェームス・テイラーに近づけられるかが勝負となるわけです。私の場合、とりあえず「きみの友達(You've Got A Friend)」のイントロを弾いて、あの最初のベース音Gとアルペジオの高音部分の音色が、どこまでオリジナルに迫れるかという観点で試奏を続けています。


ジェームス・テイラーのJ-50のその後ですが、知人の勧めでサドル下にピックアップを取りつけようとしたところ失敗してしまい、あの音色がでなくなってしまったとインタビューで答えていましたね。実に残念な話です。


でも、これも「ギブソンあるある」のひとつで、ギブソンは作りが適当な分、リペアや調整などをすると、元の音が出なくなるリスクがあるんですよね。


ギターとして良いセッティングであることが、そのギブソンにとって良い音になるとは限らないことが多いのです。ですので、気にいった音のギブソンであれば、できるだけそのままの状態を維持したいところですね。


その後のジェームス・テイラーのギター遍歴としては、伝説的なルシアーであるマーク・ホワイトブックのドレッドノートや、ヤマハのL-55カスタムなどを経由しつつ、現在も愛用しているOLSON(オルソン)のSJに至っています。


話は逸れますが、このオルソンというギターがまたクセモノでして、いたって普通のギターなんですよね。そしてこの「普通」という感覚こそが究極的だと感じさせる凄いギターなんですよね。また別の機会にでも記事にしたいと考えています。


ジェームス・テイラーの音楽性は、初期のフォーキーなスタイルから、時代の変化もあり、次第に洗練されていきます。それに伴い、ギターも変わっていくのですが、、、


音楽性が変わったから求める音色が変わったのか、ギターを持ち替えたことで新たな創造性を掻き立てられたのか。実際のところは本人にしかわかりえませんが、おおらくその両方なのでしょうね。ただ、求める音楽性が変わったからなのか、ギターが変わったからなのか、年を重ねるごとに演奏スタイルも変化していきます。


楽器としてバランスの悪いJ-50を高度な演奏技術でバランス良く鳴らしていた70年代と、バランスの優れたハンドメイド・ギターからひたすら美しい音色を引き出す近年のスタイル。それぞれ魅力的ではありますが、やはり私はJ-50時代に惹かれますね。

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