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朴 葵姫(パク・キュヒ)「ギター・リサイタル」に行ってきました。

 


実は私、クラシックギターが苦手なのです。厳密にいうと、クラシックギターと言うよりは、クラシック音楽そのものが苦手なんですが。


オマエは音楽がわかってないとか言われたくないですし、きっといつか理解できる日が来るのではないかと、何度も何度も挑戦してきたのですが、もう諦めました。


そんな中、今回はなぜか聞ける、なぜか大好きなパク・キュヒ(Kyuhee Park)さんのリサイタルに行ってきましたというお話です。




会場はトッパンホール。実際に行ってみてビックリ。信じられないくらい不便な場所にありました笑。しかも真夏の14時開演ですからね。汗ダクダクでした。


そして自分の席に着席し、開演前に配られたパンフレットに書かれていた演目を見ると、、、素人向けの曲がひとつもない、辛口なセットリスト。とても不安な気持ちになりました笑


地方公演などでは、分かりやすいポピュラーな楽曲を演奏しているようなので、よく言えば耳の肥えた、悪く言えば口うるさい東京の観客が求めるものに応えているのでしょうが、かなりビビりました。もちろん、演奏がはじまってしまえば、そんな心配は全く不要な素晴らしいものだったのですが。


この人の演奏を聴くと『表現力』という言葉の意味を考えさせられます。よく、感情を込めて弾きなさいとか、情景をイメージをしながら弾きなさいみたいなことを言われますが、私的にはそうじゃないと思うんですよね。


私が思うに、パク・キュヒさんは決してフィーリングだけでは弾いておらず、かなりアナリスティックに音楽を突き詰めているんじゃないかと思うんですよね。感情や情景をどう表現すればいいのか、その方法論を完全に理解しているのだろうと。そして、それを完璧に弾きこなす演奏技術もあるわけで。いやー、本当に素晴らしいのです。


そんなパク・キュヒさんの素晴らしいところをいくつか書き連ねておこうかと思います。



①とんでもない美音

使用ギターは2009年製のDaniel Friederich(ダニエル・フレドリッシュ)。正直、信じられないような音を出します。音響の優れた開場での生音なら尚更です。よくギターのことをたった一本のオーケストラみたいな表現をしますが、むしろ、この人の演奏を聴くとオーケストラなんて必要ない、素晴らしい演奏家とギターの6本の弦があればそれでいいと思わせてくれるほどです。



②完璧な抑揚とリズム

クラシックギターで苦手なものの一つとして、過剰な表現があるんですよね。曲に合っているとはとても思えないような唐突なタメがあったり、無駄に激しく抑揚つけたり、挙句の果てには音よりも演奏者の表情とか手の滑らかな動きとかで表現しちゃってたり。でも、この人の場合、そう言ったことをしなくても抑揚と音の強弱だけ、すなわち指のタッチだけで表現できる幅がとんでもなく広いので、おかしなアレンジが不要なのです。そして、リズムも完璧です。




③ライブの演出

高難易度のテクニックの見せ場であったり、パーカッションのような特殊な音色を出したりと、しっかり『見せる』ことも意識された構成が素晴らしかったです。そしてパク・キュヒさんを語る上で外せないテクニックが、世界最高峰のトレモロでしょう。このトレモロを聴くと、あまりの美しさに毎回魂を抜かれます(いや、本当に冗談抜きで)音の滑らかさ、粒の揃い方が尋常ではないのです。そして、完璧にコントロールされたトレモロの上で、ベースライン(メロディライン)が歌うこと、歌うこと。これだけは一度、生で見てもらいたいですね。




④弱音の美学

実はこれがソロギターであることを最大限に活かした奏法だと考えています。この人が弱音で音を弾きだすと、開場全体の集中力が増していくように感じられるんですよね。息を殺して、集中して聞かねばという気持ちにさせられるのです。その状態からとんでもなく美しい音色や、キレっキレのストロークをかましてくるので、奏者の思い通りに観客がコントロールされてしまうのです。まさにプロフェッショナルの演奏家、これは是非、生で体験してもらいたい。




⑤でも、サインに性格が表れる笑

会場でCDを購入すると貰えた直筆サイン。




このやっつけ感が好きなんですよね。昔は握手会があったのですが、コロナの影響でなくなってしまいましたね。また、MCで「トークが苦手なので話さずに弾きます」的な発言もされてて、ほんと塩対応だなと笑。決して、顧客に媚びることがないこの姿勢、私は好きです。




そんなこんなで、クラシックギター嫌いの私でも感度できる素晴らしいリサイタルでした。興味のある方は是非、足を運んでみてください。本当に素晴らしかったです。



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